5.IGOでの生活(1/2)




再び目覚めたナナシを待ち受けていたのは、途方に暮れるような量の書物と、大嫌いな注射の日々だった。


朝6時に起きたら、まず検査。


そして朝ご飯を食べた後、また検査。


それが終われば、甲斐甲斐しくも部屋に足を運ぶマンサム所長のグルメ講義(教科書付)。


そして検査を受けた後、昼ご飯を食べて検査。


午後からは、体力をつけるためのトレーニング。


そして検査を受けた後、晩ご飯を食べてまた検査。


夜9時には部屋中の電気を消されて強制就寝。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


これをひたすら半年間続けた結果、ナナシは体力をつけるどころか徐々に元気を失っていった。口には出さないにしても、こんな日々が続けば誰にだって分かる。


『…私は“研究対象”なんだ…』


そんなナナシの、唯一の楽しみといえば…講義とトレーニングが休みになる、毎週日曜日。検査はあるが、それはこの際どうでもよかった。一日中好きなことをして、好きな歌を歌って、そして…





「やぁ、相変わらず元気がないようだね」


「ココ!」


そう、日曜日はココが遊びに来る日。


初対面で『死相』云々言われ、最初は警戒していたが何てことはない、とても優しく誠実な人だと、今では胸を張って言える。現に毎週欠かさず、こうして部屋に足を運んでくれている。荒んだ心に安らぎを与えてくれ、ナナシを研究対象として見ていない希少な友達だった。


「キッスも来てる?」


うん、とココが口を開くのを待たず、急いで窓辺に駆け寄る。一週間頑張って耐えた、ナナシへのご褒美だ。ア゛ァー!という鳴き声を上げながら、キッスが窓の前に降り立つ。


「久しぶり、キッス!」


ナナシはくちばしを寄せてくるキッスに抱きついて、わしゃわしゃと首元を撫でる。キッスが懐くなんて珍しい、と驚いたココの顔は面白かった。ひとしきりキッスを撫でて、研究所でもらったおやつをあげる。振り返れば、いつものように教科書に目を落としているココがいた。


「ココも一緒にご飯食べよ」


支給された食事のトレイを机に置くと、ココが顔を上げる。何だかいつもより機嫌が良さそうなココに、何かイイコトあったの?と聞けば、ちゃんと全部食べたら教える、と言う。ここで出る食事は病院食みたいで味気なく、よく残していたのがばれていたらしい。


監視でもしているつもりなのだろうか。食べている間中、ココにずっと見られていて何だか落ち着かない。見すぎだよ、とココの顔を向こうへ押しやると、また嬉しそうに笑う。





(あ、そうか…)





前に所長が言っていた、ココの毒のこと。人にも猛獣にも避けられて、ココ自身も人を寄せ付けようとしない、毒。だが、そんなに怖ろしい毒もナナシには効かなかった。検査の初期段階で服毒テストなるものを行ったが、見事に毒を中和してマンサムを驚かせたほどだ。話は難しかったが、『中和というよりも適応と言う方が近い』らしい。ナナシが、ではなく体に入り込んだ毒が、まるでナナシの身体に適応しようとしているかのようだった、とかなんとか言っていたが、難しい話は分からなかった。ただ、ココが嬉しそうだったから嬉しい、それだけだった。


(毒が全く効かない人間なんて、今までいなかったんだろうな…)


そう思うと、目の前にいる大きな体をした青年が、とても小さい男の子のように思えて、つい頭をわしゃわしゃと撫でてしまう。


「…ちょっ…、ナナシ…っ?!」


驚いた顔を見せるココに、空になったトレイをぐいと見せつける。


「さぁ、ココ君…話してもらうよ!」





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