大倶利伽羅(0)



背中に何か当たっている、と大倶利伽羅は不自然な温もりに目を覚ました。布団などではなく、生身の温かさだ。寝がえりを打とうにもその温もりの主が邪魔をして後ろを振り向けないので、大倶利伽羅は仕方なく自由な頭を少し後ろに向け、視線だけを背後に投げた。



「―――……」



そこにいたのは、なんというか想像通りこの本丸の主だった。



「ん……」



小さく呻いて、主は大倶利伽羅の背中に擦り寄る。すると押し当てられている柔らかいものがより一層大倶利伽羅の背中に潰れて、大倶利伽羅は何かをごまかすように大きく息を吐き出した。
こうした目覚めはこれで何度目か。慣れ合うつもりはないし優しくしたつもりもないのに、この主はどうしてか自分に縋ってくるのだ。もっとあからさまに優しい光忠や一期一振に縋ればいいのに。

―――でも。

そっと主が今のように起きぬけの光忠や一期一振に温もりを押しつけているのを想像して、ざわりと心が波立った。
はぁ、と再び息を吐き出して、大倶利伽羅はあまりにも温かすぎる束縛からそっと抜け出す。はてさて今日潜り込んできた理由はいったい何なのだろうか。怖い夢を見たのか、厠へ行って部屋まで帰る暗闇が怖かったのか、なんにせよ、別に今すぐ起こさなければならないわけでもあるまい。とりあえず顔を洗ってこよう、と大倶利伽羅は主に布団をかけなおしてやってから静かに障子を閉めた。



「あ、大倶利伽羅おはよう。主はまた君の部屋?」

「……ああ」



洗面所に入ろうとすると、既に身支度を完璧に終えた光忠が黒いエプロンをつけて台所から顔を覗かせた。



「主は本当に君が好きだねぇ」

「わけがわからない」

「そう?君は無自覚に優しいからね」

「……別に、優しくなどない」



光忠は、主との話になると必ずそう言うのだ。あとは国永もか。別に優しくなんてしていないのに。



「だから無自覚だって言ってるじゃないか」



くすくすと光忠は笑って、おっととか何とか言いながら台所に引っ込んで行く。そうしてふたたびにょきっと顔を出したかと思いきや、朝ごはんまでには主を起こして連れてきてね、と言う。何故俺が、と思わなくもないが、まぁ自分の部屋に寝ているのだから仕方がないか。



「ああそうだ、二人して二度寝しちゃ駄目だよ」

「っ、」



余計な御世話なことを言いながらウィンク―――眼帯しているから良くわからないけれど雰囲気は完全にからかっていた―――してきた光忠に何か言おうと洗面所に向かおうとしていた体を台所の方へ向けたが、光忠は既に台所に引っ込んでしまった後だった。
顔を洗って部屋へ戻ると、主はまだ布団の中で丸まって惰眠を貪っていた。べりっと上掛けをはぎ取ると更に小さく丸まる。



「―――あんたは……」



そっとその上に馬乗りになって、縮こまってしまった拍子に顔にかかった髪の毛をどけてやる。
一体、何を思って布団に忍び込んでくるのか。しかも襦袢姿で。見れば裾からは白く透き通るような足が太ももまで覗いているし、寝相が悪いのか豊満だからか何なのかは知らないが、胸も袷からちらちらと覗いている。―――不便だ、とこういう時に思う。何故男の姿で顕現されたのだろうか。姿が男だと思考も男になるようで、こういう扇情的な姿を見せられるともぞもぞとする。元は刀だったくせに、今も刀である事に変わりはないくせに、おかしな話だ。



「ん……くり、から……?」



じわ、と目が開いて薄ぼんやりとした瞳に光が宿り、大倶利伽羅に焦点が合う。すると主はまだ思考にもやがかかっているのか、ふやけきった表情でおはようございますと笑った。



「今日は何でもぐりこんだ。やめろと言っただろう」

「こわいゆめをみたんです……」



そっと主は大倶利伽羅へ向けて両手を伸ばす。



「目が覚めて一番に思い浮かぶのが大倶利伽羅なんですもの」

「……だからってな、」

「だって、大倶利伽羅が……好きなんですもの」

「……は?」



いきなり何を、と大倶利伽羅はこちらに手を伸ばしたままの主を見る。



「いきなりじゃありませんよ?わたくし何度も何度もお伝えしてます」



いや、聞いていない。



「それに、好きではなかったら怖い夢を見て一番に大倶利伽羅が思い浮かぶはずありませんし、思い浮かんだとしても、布団に潜り込んだりしません」

「あんたは……」

「あなた方にそういう欲があるのかは存じ上げませんが、もしあったとして、大倶利伽羅にならば何をされても平気だと思うから、こうして無防備に縋りつけるのです……」



吸い寄せられるように、大倶利伽羅はかがみ込んだ。そうして、切々と自分の気持ちを語っていた主の唇に、そっと触れる。



「今日からはここで寝ても?」

「―――駄目だ」



呟いて、大倶利伽羅は再び主の唇を奪う。今度は角度を変え舌をからめて、酸素を吸いつくすように激しく。



「週に一度ぐらいにしろ」

「まぁ。せめて三日に一回にしてくださいな」

「知らん。着替えろ、光忠が朝食を作って待っている」

「―――ケチ。良いです、あなたが寝ている隙に潜り込みますもの」



わたくしが潜り込むの得意なのは知ってらっしゃるでしょう?と主は可愛らしく笑う。確かに気配を感じぬほどだから得意なのだろう。

だが―――大倶利伽羅は知らない。



「潜り込まれても気付かないとか、大倶利伽羅はよほど主に気を許していると見えるな」

「無自覚なんだから可愛いよねぇ」



そう、兄貴分のような二人に冷静に自分の気持ちを分析されているとは……

comment(0)




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -