神田係奮闘記-9
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ラビが普通科に下りてきて一月。わからないところをなまえに聞くだけだったラビも、英語や数学などでは逆になまえに解説するという場面も見せるようになった。元々フレンドリーで打ち解けるのも早いのだ。
「なぁ、ちょおーっと、聞いてもい?」
「いいよ?」
古典の自習時間。勉強のことかと思いなまえは小首をかしげつつ請け負った。
「ユウと何かあった?」
「え……」
どうして、と逆になまえは尋ねる。何故そんな事を聞くのか。何故、そんな風に思ったのか。
「最近のなまえはユウを避けてるように感じるんさ」
「避け……てる、っていうか、そもそも科もクラスも違うし……」
「食堂に行かなくなっただろ、図書館に行かなくなっただろ、」
指折り数えるラビ。なまえははぁっとため息をついて、シャーペンを置いた。
「別に……そんな大したことじゃないよ」
否、本当は大事である。
「特進行けなかったから、もうちょっと頑張れよみたいなことを言われて、カチンときて口論になって……気まずくなったの」
「ふぅん?」
ラビは頬杖をつきながらなまえを覗きこんだ。なまえはラビの方は見ず、ただ机に置いたシャーペンを見つめるだけだ。
ラビとしては、果たして神田がそんな事を“なまえ”に言うだろうか、となまえの言葉をまるきりは信じていなかった。神田はなまえに好意を寄せているはずだ。その神田が、なまえを挑発するようなことを言うだろうか。
「それに、神田君には彼女がいるわけだし、私みたいなのが周りをふらふらしてたら迷惑でしょ」
「―――ん?ユウに……彼女?」
「うん」
「え、誰さそれ」
「リナリーさん……」
ちょ、ストップ、とラビはなまえの前に手をつきだした。なまえはわけがわからずに首を傾げている。
「あの二人は付き合ってなんかないさ!」
「え……」
「そもそも何でそんな事!?」
「噂があって……それに、神田君が女の子愛称で呼ぶのって特別だからかなって」
そういえば……そうかもしれない。くそ、誤解を招くようなことをしおって、とラビは武将のような口調で神田を詰る。
「まぁ幼馴染だし、特別は特別かもしれんけど……愛称で呼ぶようになったきっかけとかは俺も知らないし。でも、あの二人は付き合ってないさぁ」
「えっ!?」
「リナリー、別の学校に行ってるやつと付き合ってるんさ」
「へ!?う、うそ!」
「嘘じゃないですー」
そ、そうなんだ……となまえは複雑そうな顔で頷いた。それを見て、ラビは思う。
(喜べユウ、脈なしじゃないみたいさ!!)
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