七瀬遥の独白とか(0)



―――のところには凛か真琴か好きな方当てはめていただければ。

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なまえは滅多に泣かないというけれど、遥の中でのなまえはいつもしょげているイメージだった。それは、なまえが比較的遥に対しては愚痴をこぼしやすかったからだろう。
ぐずぐずと泣きながら腕を掴んで離さないなまえに、遥はため息を漏らした。折角温めてあとはよそうだけだったご飯が冷めて行くのを感じる。



「今度は何があったんだ」

「―――が浮気した」

「っ!?」

「……比較的嘘だけど」



そんなまさか、ありえるのか、という遥の思考を読んだのか、なまえは拗ねたように付け加えた。けれど比較的、ということはあながち間違いではないのだろう。“浮気”ではないが、女子と“ちょっと線を越えるぐらい仲良くした”というところか。
ちょっと離れろ、と遥が言えばなまえは素直に離れた。その顔はなみだで彩られていて、いつもの少し気の強そうななまえの面影などない。
なまえは存外よく泣くし、よくへこむ。



「絶対、絶対そのこ―――のこと好きだと思うの。でも、でもね、―――はそんな風に見てないからって、優しくするの」



なまえと―――は同じ職場ではないから、気が気ではないのだろう。それで、ぶったたいて飛び出してきたのだとか。ぶったたいた辺りがなまえらしいといえばなまえらしい。
不安になるのだ、となまえは泣く。―――は人当たりが良くて面倒見がいいから、方々から好かれるのだと。それでいて鈍感だから、あからさまに好意を寄せている人にも優しくする。それがもう、なまえには嫌で嫌でたまらないらしい。



「―――が職場で嫌われちゃうのも嫌だけど、―――が―――のこと好きな女の子に優しくしてるのも嫌なんだもん」



それは、まぁ、そうだろう。職場が違うのだ、圧をかけることすらできない。ただ―――伝手に話を聞いてもやもやすることしかできないのだ。まぁそれは―――の方も同じだろうが……それはそれ、なまえは案外聡いので自分に好意を寄せているであろう男に必要以上に優しくしないことは知っている。



「う、ううう、」



言っていて再びこみあげてきたのか、なまえはぐあっと遥に抱きついた。遥の方は畳の上に倒れ込みそうになるのを防ぎながら、ああこの状態を―――に見られたら殺されるかもしれない、とぼんやり思う。
しかたなさそうになまえの頭を撫でてやれば、なまえは甘えるようにわんわん泣いた。

遥の中で、なまえの立ち位置はいまいちよくわからない。とりあえずわかっているのは、こうして抱きつかれても欲望がむらりと湧きあがらない辺り恋愛対象にはないのだろうということ。だが、甘やかしてやるぐらいには大切な存在であるということ。たぶんなまえの方も同じなのだろうなぁ、と自分となまえの奇妙な関係に、遥はまたため息をつくのだった。

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