ユウを案内していった私におじさんはたいそう喜んで、なんやかやあった結果私はユウの家に泊まることになっていた。ユウの家は、丁度私の家と学校の中間にあるのだ。ちなみにユウは一人暮らしである。彼女でもない───なれたら良いなとは思っている───のに図々しい限りだが、ユウが嫌がってないので良いのだろう。おじさんはさっき帰ってしまった。
帰る前におばさんに自慢すると言っていたが何のことかわからず、ユウに聞けば私とご飯を食べたことらしい。確かにさっきまで居酒屋にいたけれど……。何を自慢する要素があるのか皆目検討がつかなかった。



「あのさ、授業……何やったの?」

「あ?親父が講義して……何人かに浴衣着せたり」

「ゆ、浴衣着せたの!?」



こっくり頷くユウに、私は着せてもらった人が羨ましくて仕方がなかった。何故ならば浴衣を着るときに結う伊達帯や帯を第三者が結ぶとき、まるで抱きしめるような形になる。ユウに抱きしめられるとか、ああ、何て羨ましいんだろう。



「浴衣着たいのか?」

「へ?いや、まぁ……でも私持ってないし」

「親父がお前にって置いてったやつがあるけど」

「ほ?!」



どうやらおじさんは私の大学へ行く前にいったんユウの家に寄って浴衣を置いてから向かったらしい。
ユウが取り出した浴衣は黒地に淡い桃色の花びらが散り、裾の花びらが密集している部分には蝶が舞っている。はっきり言って、好みだ。ユウの話によれば、おじさんが布を選んでおばさんが仕立ててくれたのだとか。二人の見立てなら似合ってくれるかもしれない。



「でも、いいのかな、私彼女でもないのに……」



そう言いながらユウを見ると、ユウは少し驚いたように目を丸め、その後何かを考え込むように視線を左右に動かし───やがて中空を見据えて止まった。



「俺、あれ……?」

「あれ?」

「……言ったような気がしてた」

「え?」



だから、と言うユウは珍しく困ったような顔をしている。



「好きだ、って」

「ん……え!?」



好き、好き、だって?言ったと思っていたというところはいただけなかったが、今言った好きという言葉がユウの声で反響する。



「……つまり?」

「俺の家族はみんなお前は俺の彼女だと思ってる」

「……っ!!」



かの、じょ。



「彼女って、それは……」



恋人同士という、こと?



「浴衣もらっても、いいってこと……?」

「ああ」

「ユウ、が……着せてくれるの?」

「だからそう言ってる」

「……っ!き、たい!私、その浴衣着たい!」



それは同時に恋人同士という関係を認める───喜ぶということになるわけで、ユウはふっと笑った。



「じゃあ、とりあえず襦袢だけ着てこい」

「うん!」



嬉しさに舞い上がりながら風呂場を陣取り、服を脱いで襦袢を着る。……どうしよう、これ、意外と透けるんだなぁ。この姿でユウの前に出るのは少し恥ずかしい。けれど、ユウに浴衣を着せてもらうだなんて滅多にないことだ。
───えぇい!
出来たと言いながらユウの前に行けば、予想に反してユウは淡白な反応だ。ベ、別にそんな、何かを期待してたとかじゃないけど。ないよ?違うよ?そんなこと全然ないんだからっ……!
浴衣に手を通し、両手を上げたままの体制で止まる。ユウは慣れた手つきで前を合わせ、伊達締めをする。そのたびユウの腕が私のお世辞にも細いとは言えない腰に回り、恥ずかしさで倒れそうだった。



「ほい」

「おぉ……!」



ユウの家に姿見などはなく、浴室にある鏡で自分を見る。自分でいうのもどうかと思うけれど、似合うのではないだろうか!ユウを見ればユウは幾分柔らかい表情でこちらを見ている。
今なら、言ってくれるかな。似合ってるか聞いたら、うんとかすんとかじゃなく、似合ってるって、返してくれるかな。



「ユウ、に、似合って……る、かな」

「……そうだな、似合ってる。癪だけど」

「し、しゃく!?」

「それを親父と母さんが選んだってのが癪」



な、なるほど。少し安心しているとユウはぐいと私を引っ張った。ぽふりとユウの肩口に頭を預ける形になる。ユウはそのまま、私を膝に乗せてベッドに腰掛けた。



「あ、の……ユウはいつから私のこと彼女って思ってたの?」

「あのバカが一回付き合ってしまえとか言ったことあったろ」



あのバカとはたぶん間違いなくラビさんのことだろう。付き合ってしまえとか、言われたこと……



『付き合ってないとか嘘だろ。どう見ても付き合ってるようにしか見えないさ』

『じゃあ付き合うか?』

『あはは、いいねぇ』



これ、か……!!私はあれを場を和ませるための冗談だと思っていた。



「俺が冗談で言うわけねぇだろ。しかも普通に泊まりに来たりするし」

「や、それはー……」



ユウは私のこと何とも思ってないのかな、だとしたらとっても悲しいなぁと思っていたわけで、泊まる云々になれば何かあるんじゃないかと……って違う!



「何で冗談だと?」

「僻んでたんです。私可愛くも何ともない」

「バカだろ。お前の可愛いところは俺が知ってるし、これからはもっと」



そこまで言って、ユウがさりげなく耳たぶを甘噛みした。体中を走り抜けるように痺れを感じ、思わず変な声を出す。



「捜し当てていくぞ?」



顔が、体中が熱くなる。ユウはしてやったり顔でこちらを見ているし、確信犯なのは分かり切ったことだ。








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -