すごい、また一番だよ。 廊下に張り出された上位成績者が記されている模造紙を見ながら、全員がひそひそと何かを言っていた。 一番、と口の中で呟きながら、祐喜は模造紙の一番右端に記されている名前に目を向ける。
───葵井琴羽……
その名前は、いつも欠席者の欄に記されている名前と同じ名前だった。
彼女は天才少女
「存じ上げてますわ」
「え、そうなの?」
「寮生だしな」
「結構有名ですしね」
おお、そうなのかと祐喜は1人で納得する。
「でも、ずっと休みになってるよ?」
「そういうことになってるだけだぜ」
「ふぅん?」
「実際は別のカリキュラムを組んでやってるんだ。ま、ほぼ独学らしいけどな」
「やけに詳しいね、咲羽」
ん?と咲羽は一瞬目を丸めると、ニッと笑った。 雪代や雅彦は先程から質問ばかりの祐喜を、それはそれは微笑ましそうに見ている。
「え?───え?」
咲羽はハハッと笑うと、それ以上は何も言わなかった。
*******
本だらけの部屋だった。 いたるところに本が積み重ねられている。 その本のタワーの真ん中に、小柄な少女が一人座り込んで分厚い本を読んでいた。
「目ぇ悪くなるぞ」
「んにゃ?……あ、咲羽くんだぁ!」
ぱっ、と花を咲かせるように微笑んだ少女は本を閉じて咲羽に向き直る。
「今日は?」
「ショートケーキ」
「わぁい!」
少女───琴羽は咲羽より幼い顔立ちをしているが、咲羽より年上である。 成長速度が極端に遅く、子供っぽい感じが抜けないため実年齢より遙か下に見られることが多いのだが、知識は人以上に備えていた。
「今は何読んでるんだ?」
「んとねぇ、中世の魔術書かな。面白いよ」
そもそも読書が好きではない。 咲羽はショートケーキを嬉しそうに頬張る琴羽を見ながら、くすりと笑った。 初めて会ったとき、琴羽は今よりもう少し大人びた印象を受けたように思う。 たぶんあれは人見知りからくるものだったのだろう、今ではだいぶ印象が違っている。
「私に会いに来てくれるのはねぇ、咲羽くんだけなんだよ」
「そうなのか?」
「うん。先生は来るんだけどね」
「じゃ、今度は友達連れてきてやるよ」
え、と嬉しそうに笑った琴羽は、しかしすぐに首を振る。
「いい」
「え?」
「咲羽くんと二人っきりが良いんだもん」
「っ」
照れたような笑顔だった。 咲羽はそれに怯み、琴羽と同じように照れた笑みを浮かべる。
「そうだな」
「うん!」
幼く見える目の前の少女。 それが愛おしくて仕方がないのである。
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