「んっ……、ふ、ぁ……」
咥内をくまなく蹂躙しながら咲羽は煩悩が頭の中を渦巻いていくのを感じた。ぎゅうと制服を握られており、小刻みにふるえる体を抱き込んでなおも激しく求めればその力はさらに強くなる。それが、愛おしくてならない。かすかに漏れる鼻にかかったような甘い吐息も耳朶をふるわせじんじんと体の芯を痺れさせる。ああ、このまま、どこまでも―――…… そう思ったところでびくりと琴羽の体が震えた。 怯えている、というのが一瞬でわかる。気づけば咲羽の手のひらは琴羽の腰をなでながら制服の中に侵入しようとしており、そのせいで怖がっているのだということはすぐにわかった。
「悪い」
「あ、の……」
「ん。まぁもうすぐ予鈴鳴るし、俺行くわ」
昼間からなにをサカっているのだと自分で自分を罵りたくなる。―――が、いたしかたないといえばその言葉で収まるような気もするのだ。
「じゃ、放課後な」
「……うん、またね咲羽君」
琴羽と咲羽が付き合い初めてそろそろ一年。咲羽としては一線越えたいと願うのだが、いかんせん琴羽はそういうことに疎い。疎い上に咲羽がリードしようとすれば怯えるのだから始末に悪いと言わざるを得ないだろう。ようやっとディープキスまでは受け入れてもらえるようになったのだが、その先は未知の領域なのでキスよりもっと怖いらしい。まぁ今のは、昼間だからというのもあるだろうが。 そういう、初なところも可愛らしいとは思う。愛しいとは思う。だが、だからといって咲羽も健全な男子であるからして、あんなふうに可愛らしく鳴かれた上にお預けというのは響くものがあるだろう。かといって怯える琴羽に強制することもできず、今のように少し微妙な空気を振り切るように別れることしかできないのだ。―――嗚呼。 一方琴羽は琴羽で何も思っていないわけではなかった。友人からは『あの咲羽君と付き合えてるってだけで凄いのに、まだキス止まり!?違う意味で凄いよ!』とまで言われた。曰く、健全な男子であればそういうことに興味がないはずはなく、彼は相当我慢してくれている―――らしい。実際我慢しているのだろうなということはわかる。さっきだって、そうだ。
「別に、」
教室へ戻りながら琴羽は唇をとがらせた。 別に、嫌なわけではない―――はずだ。知識として持っていないわけではないし、経験済みの友人は距離が深まったとか何とか盛大にのろけをご馳走してくれたし。ならば何が怖いのか。
「咲羽君ががっかりしたら……」
どうしたらいいんだろう。という、それである。 咲羽は学内で指折りだけれど自分は中の中。胸だってさほど大きいわけではないしお腹にはお肉たくさんついてるし、足だってそんなに細い訳じゃないしつまり全体的にスタイルはよくない。ただ日本人は悪く見がちという話を聞いたことがあるからがんばって大目に見ても、やはりスタイルも容姿も中の中。上の上にいる咲羽に申し訳ない―――と、咲羽本人が聞けば一笑にふしそうな内容でびくびく怯えているわけである。
「ううううう……」
自然と指が唇に触れた。先ほどまで咲羽と触れ合っていたとはいえもう温もりなど残っていない。
「怖いけど、でも、」
咲羽の忍耐が途切れるのが先か琴羽の勇気が恐怖を勝るのが先か。 それは今の時点では何ともいえないほど―――
「俺がサカりすぎなんだろうな」
二人とも、
「私が怖がりすぎなんだよね……」
自己完結の嫌いがある。
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