ごく稀に、私にはすごく泣きたくなるときがあった。理由はなかった。1人で居るこの空間がどうしようもなく怖くなって、私はシーツを目一杯被り、う、う、う、と言葉にならない嗚咽が涙と一緒にこぼれ出そうになるのをこらえいた。金縛りにあったかのように体の自由は失われ、クラクラと目眩を感じながらベッドの上でこぢんまりと丸まる。

「おい、」

遠くで声が聞こえたような気がした。扉の向こう側から、ドンドンという不躾なノックと共に、再び「おい」という低い声が扉越しに響く。

「ザンザ、ス?」
「ああ。開けろ」

ちょっと待ってと返事をしたのはいいが、私がいるベッドから扉まで少し距離があった。いつもだったら何てことないこの距離が今日はひどく遠く感じた。ベッドを降りて1歩2歩と進んでみたが、揺らぐ視界に我慢ができずに立ち止まる。それに何より足が竦んで動くのが難しい状況にまで追い込まれているようだった。目尻に水滴が溜まる。私はその場にしゃがみこんで拳を握り、声を振り絞った。

「う、動けない」
「離れとけ」
「え?」
「扉から離れとけよ」

私が返事をするよりも早く、バキィッという高い音が耳に入ると共にザンザスが私の前に現れた。部屋の扉は無残にも破壊され、その上にはザンザスが佇んでおり、床に座り込んだ私を静かに見下ろしていた。

「また泣いてんのか」
「う、う……」

私が泣いているといつもそうだった。まるで私がいつ泣きたくなるのかを把握しているかのように、ザンザスは私の前に現れては手を伸ばしてくれる。私に安心感を与えてくれる。

「まったく、てめえは……情けねえ面してんじゃねえよ」

ザンザスはゆっくりと私に近づいてきて、ぐしゃりと頭をかき回す。私はザンザスにしがみつくように、彼の背中に腕を伸ばした。溜まっていた涙は大粒の雨のようにぽろぽろと降り出してザンザスのシャツを濡らした。ザンザスはそれに文句を言うでもなく、ただ無言で私の背中に手を添えていた。その掌から伝う心地良い温度が、ピンと張り詰めていた私の中の何かを緩めるように体中へと広がっていく気がして、私は再び声を出して泣いた。



涙が枯れるまで泣いたら、明日はきっと笑える気がするのです







110326
裸族企画に提出
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -