すべては私の「ベルってスポーツ得意そうだよねえ」の一言から始まる。



1日目。キュッと靴と床が擦れるような音が鳴るのに加えて、ダムッダムッという鈍い音が私の耳に届く。目の前にはコートの端から端を駆け回るベルの姿があり、ゴールを決めた時にちらりと見せる白い歯は年相応なスポーツ少年の爽やかさを感じさせた。爽やかなのは彼の表情だけであって、周りには先ほどまで一緒にバスケをやらされていたベルの部下たちが倒れていてなんとも血なまぐさかった。自分のプレーが納得いかないからって試合中にナイフを投げるのはいかがなものか。

「つまんね」



2日目。キンッという金属音とだだっ広いグラウンドを見て、自分たちの本職が暗殺業であることを忘れそうになった。ベルとその部下たちは必死に白くて小さな球に神経を研ぎ澄ませていた。言わずもがな観客はおらず、歓声もブーイングもない静かな状態で行われる野球は思いのほかシュールだった。ベルは自分が打席に立つまでの順番を指折り数え、ベンチに腰掛けた。その矢先にまたナイフが飛んだ。

「飽きた」



3日目。試合形式にするからいけないのだ、とベルは思い立ったように口を開いた。自分の何倍もあるゴールの前に立ち、足元にボールを用意する様子を見ていると、どうやら今日は「シュートだけ」のサッカーをするらしいことがわかる。ゴールキーパーはやっぱりベルの部下で、ベルが思いきり蹴ったボールを勇敢にも止めにいった。見事に手中に収まったのを見て、ベルは面白くなさそうな様子で再びボールを蹴る。先ほどよりも強く、そして近い距離で蹴られたボールは一直線に部下の顔面に入った。アーメン。

「空気読めっつーの」



4日目。テニスラケットを振り回しながら黄色いボールを打ちつけるベルの姿がそろそろ恐ろしくなってきた。無駄に高い審判の椅子から見える景色に少しだけ楽しむのも束の間、ボールがラケットに当たらないという自分勝手な理由で一昨日ぶりにナイフが飛んだ。倒れ込んだのはベルの相手をしていた部下で、なんというか本当にもう可哀想。だからといって助ける気なんてさらさらないのだけれど。ムカつく、と言いながらベルは倒れる部下を的にしてテニスボールを打ち込んだ。あ、当たってんじゃん。

「しししっ」



5日目。やるならやっぱり個人競技だよなあ!といつになく楽しそうなベルとは反対に私の心は重々しい。カコンカコンというピンポン球特有の音が耳障りだった。卓球のラケットをくるくると回すベルの相手が、今日は部下ではなく私だという事実に絶望しながら佇む。「え、ベル、ちょっと意味がわからないんだけど」という私の反論など全く耳に入れる様子は微塵もなさそうで、ベルはオレンジの球を手のひらに置いた。

「タイムタイム!ちょ、待っ!」
「待ったなし」

バウンドもせず、容赦なく直接私にスマッシュが打ち込まれる。小さくて軽い球のはずなのに地味に痛いし、ルール的には私のポイントになるのに素直に喜べない。というかルールなんて無いのと同じだ。こんな仕打ちを受けてきた前日までのベルの部下にひどく同情をしながら私はピンポン球を避ける。最初は楽しんでいたベルも次第に熱くなり、球は打つしラケットも投げるし最終的にはやっぱりナイフが飛んでくる。ちょっとこれはやりすぎなんじゃないの。ナイフを繰り出すベルに我慢ができなくなった私は、懐にあったトカレフを手にし、互いに殺し合うところまでヒートアップした。その後、スクアーロに見つかり「うるせえぞガキ共ぉ!」と説教を食らう羽目になったのは暗殺者として後世に残すことのできない恥ずべき行為である。





悪いのはベルだ。原因が例え「ベルってスポーツ得意そうだよねえ」という私の一言から始まったとしても悪いのはベルだ。確かにベルは流石と言っていいほどにスポーツが得意であったが、フェアプレーの精神や正々堂々なんて言葉はまったく通じないし、理解しようともしないのだ。

「俺はスポーツ選手じゃないから正々堂々なんてクソ食らえだし、例え卑怯だろうと陰湿だろうとアンフェアだろうと勝てばいいんだよ。だって俺ら、ヴァリアーだぜ?」

ニィと笑うベルの歯はやっぱり白くて爽やかで悔しい。







110303
庭咲さんへ/俳冶より

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