凄さんが来なくなって一週間が経った。





別に喧嘩したとかではなく、ただの出張だ。

期間は一ケ月。

凄さんとこういう関係になってから一ケ月も会わないのは初めてのことだ。

こういうってせうのは…まあ、うん。あれだ。わかるべ…?

別に一緒に暮らしてるわけじゃないから毎日会ってるわけではないけれど、一ケ月はさすがに堪える。

まだ四分の一しか経ってないのに、こんなんじゃ先が思いやられるべ…。




部屋を見渡しても凄さんのものは少ない。

本人があまり物を持たない主義だから仕方ないのだけど。

その数少ない私物の中でも珍しく常に持ち歩いているものを手に取る。

手のひらサイズのそれは、身体に悪いし煙たいしでオラはあんま好きじゃねぇんだけど、凄さんにとっては必需品らしい。

箱から一本だけ拝借して残りを元あった場所に戻す。

そのまま先ほどまでいた位置に戻り、拝借したそれに火をつけた。

換気扇なんて回さない。別にオラが吸いたいわけじゃねぇから。

一本分の煙に包まれていたいだけなんだ。



吸いながら付けた方が付けやすいのは知ってるから、最初だけ軽く煙を吸い込む。

舌に苦い味が広がり若干顔が歪むのがわかる。


「凄さんはよくこんな不味いもん吸えるべ…」


好き好んでこんなの吸うなんて、凄さんはぜってえ味覚音痴だ。

こんなの何が良いのか、オラにはさっぱとわかんね。

そう、アレのときだっていつもこんな風に少し苦くて…






「あ…」






そこまで考えて思わず自分の唇に手を当てる。


「〜〜〜〜〜〜〜!!!」





そうだった…。これは凄さんの味だ。





なんてことだ。そんなつもりはなかったのに、自分の予想外のところで凄さんを近くに感じてしまい、対処に困る。

いないときですらこんなに掻き回すんだから性質が悪い。



いつもは付けるときだけ吸う煙草をしばし見つめ、ゆっくりともう一度だけ口づける。

今度は少しだけ。普段、凄さんとキスをするときに感じるくらいの本当に微々たる量を吸いこみ、灰皿に戻す。

そのまま誰が見ているわけでもないのに顔を膝に埋めて丸くなった。

きっと今オラの耳は真っ赤に違いない。

本当、性質が悪い…






「早く、けぇって来るだーヨ…」


今なら、少しくらい素直になってやってもいい。

できれば凄さんが帰ってくるころにはこの気持ちも今日のことも忘れていたらいいと思いながら、煙草の煙をひたすら眺めていた。



 それは貴方とのキスの味






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