学校の帰り道、いつもの面子とファーストフード店に立ち寄った。

食い盛りの青少年なのでテーブルの上は食い物で溢れている。

俺を含め半数は一心不乱に目の前の食い物を平らげていた。

そんな中、俺たちの食事を止めたのは仙蔵の何気ない一言だった。


「錫高野は恋人と上手く言ってるのか?」

「ぶっっ!!」

「うわっ!?何すんだよ与四郎!!」


予期せぬ問いかけに思わず食いかけのポテトを吹き出してしまった。

目の前に座っていた留が怒っているが俺はそれどころではない。


「な、なにせーってんだーヨ!」

「何だ、気づかれてないと思っていたのか?」


平然ととんでもない事をのたまう仙蔵は涼しげな表情で飲み物を啜っている。

確かに俺は付き合っている恋人がいるが、世間一般的に公表出来ない恋人だったりする。

だからこそ友人たちにも言えずこっそり付き合っていたのだが、何故それを仙蔵が知っているのだろう。


「え?与四郎くん隠してたつもりだったの!?」

「は!?」

「こんなに分かりやすいのに隠すも何もないだろう。」

「文次郎まで!?」

「堂々としてればいいじゃないか!」

「小平太………ってことはみんな気付いてたんか…。」


隠してたつもりだったのに、なんで全員にバレているんだろう…。


「最初に気付いたのは仙蔵だけどね。与四郎くん恋人さんと会った次の日とか機嫌良いし。」

「………」


さも当たり前のように言う伊作にもう言葉も出なかった。

というか恥ずかし過ぎて何も言えなかったと言う方が正しい。

現に俺の顔はタコに負けないくらい真っ赤になっていた。


「そんなにわかりやすかったけ…?」

「「「うん」」」


全員に肯定されてしまい二の句が告げない。

そんなに分かりやすかっただろうか…。

穴があったら入りたいとは正にこのことだ。


「幸せオーラ全開過ぎて見てて困ったぜ。」

「一番留さんが中てられてたもんね。」


やれやれと言わんばかりに責められ非常に肩身が狭い。


「そんなつもりは無かったんだーヨ…」

「幸せなのは…いいことだ…」


長次がフォローしてくれるが今の俺にはフォローと言うよりも追い打ちに感じられる。

つまりはものすごく恥ずかしいのだ。

だが、そんな恥ずかしさもある一言で吹き飛んでしまった。


「でもさー、与四郎の恋人ってどこが良いんだ?」

「は?」


不思議そうに聞いてくる小平太には悪意も何もないが、俺はその発言に無性に腹が立った。


「確かに。そこは少し気になるな。」

「前みんなで後付けた時見たけどちょっと怖そうだったよねぇ。」

「あいつはどうも胡散臭くて好かん。」

「お前の好みなんて聞いてねぇだろ。」

「なんだと!?」

「やるか!?」

「…店の中では静かに。」


みんな好き勝手に言ってくるのが更に俺の癇に障った。

俺も普段凄さんに向かって散々言ってはいるが、自分で言うのと他人に言われるのとでは違う。

俺はちゃんと凄さんが本当は格好良いって知ってるから。

でもみんなは何も知らないで凄さんのことを悪く言う。

いくら中の良い友人でも、そんなの許せない。凄さんのことを悪く言って良いのは俺だけだ。


「与四郎顔良いんだから可愛い彼女作れそうなのになぁ!」

「モテるもんねー。」

「留三郎と違って与四郎は硬派だからな。」

「おい、仙蔵!それどういう意味だよ!」

「そのままの意味だろ。」

「うるせーギンギン野郎!!」

「このナンパ野郎が!!」

「…静かに。」

「で、結局のところどうなん…」

「凄さんは!!」


ついに我慢出来ずに声を荒げて立ち上がる。


「凄さんは誰よりも格好良いんだーヨ!優しいし、笑った顔なんか可愛いんだかんな!」


すっかり機嫌を損ねてしまった俺は、そのまま鞄を引っ掴みさっさと店から立ち去った。


「…これはベタ惚れだな。」

「あんな与四郎くん始めて見たよ。」

「あいつ、自分で惚気たこと気付いてねぇよな。」


俺が居なくなった後、そんな会話がされていたことなんて知る由もなく。


「みんな勝手なことばっかせーって…凄さんの良さを知らねぇくせに…」


店を出た後も俺は怒りが収まらない。

自分の恋人を悪く言われるのがこんなに嫌なものだとは思わなかった。…褒められてもそれはそれで複雑だけど。

本当はみんなが俺のことを心配して言ってくれたってわかってる。

でも、嫌なものは嫌だった。

なんだか無償に凄さんに会いたくなって、ポケットから携帯を取り出す。


「今、仕事中だべな…。」


まだ夕方だ。凄さんは忙しいから今電話しても出れないだろう。

メールを入れてみようか思案していると、タイミング良く携帯が鳴った。


「わっ!」


携帯の画面には【凄さん】の文字。


「タイミング良すぎだーヨ…。」


凄さんと繋がってる気がして嬉しさ半分、恥ずかしさ半分な気持ちになりながら通話ボタンを押す。


「…もしもし。」

『おう。今大丈夫か?』

「大丈夫だーヨ。」

『今日早く終わりそうだからお前の家に行こうと思ったんだが…』

「………わかった。」

『7時くらいには着く。』

「うん…。」


本当にタイミングが良すぎて困る。

会いたい時にこんな電話されたら嬉しくていつも通りを装うのも大変じゃないか。


『…なんかあったか?』

「え?」

『いつもと様子が違うからな。』

「そんなことねーだヨ…。」

『今日会ったら抱きしめてやるから元気だせ。』

「…っ!うっせー!!アホなことせーってねーでさっさと仕事終わらせろ!」


恥ずかしい事をのたまうおっさんに思わず怒鳴って携帯を切ってしまった。


「何考えてんだあのおっさん…。」


顔が熱い。今日は赤くなってばかりな気がする。

さっきまで苛々してた気持ちは凄さんの所為でどこかに行ってしまった。

にやけそうになる口元を引き締めながら携帯を鞄にしまう。

凄さんが来るなら早く帰って晩御飯を作らなきゃいけない。

今日はちょっと頑張って凄さんの好きなものでも作ろうかなんて考えながら家路を急いだ。

鞄にしまった携帯に届いた友人からのメールに気付くのはもう少しあと。





【差出人:伊作】

【件名:与四郎くんと恋人さんへ】

【本文:お幸せに!! 友人一同】









 持つべきものは友



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