ジリジリと日差しが射す昼過ぎ。

俺は任務を終え、城へと急いでいた。

それにしても暑い…。仕事のしやすさ故に、潜入等人目につくとき以外は黒い忍服を来ているため、日光の吸収が半端じゃない。

さすがの俺も少し参る。

白目の野郎辺りは今頃暑さにバテてだらけているだろう。

目に浮かぶ部下の姿に頭痛を覚えたが、今は帰ることだけを考えよう…。あと帰ったら白目殴ろう。

小さな決意を胸に、俺は脚を動かし続けた。



そんな俺の脚を止めたのは微かに聞こえた声だった。

数人の声が聞こえ、敵かと思い少し身体に力が入る。

耳をすませると数人の子供の声が聞こえた。

なんだ…餓鬼か…

だが、再び止めた脚を動かそうと意識を反らした時、予想外の声が聞こえた。





「喜三太ぁー、あんま遠くさ行ったら山野先生に怒られるだーヨ!」





この声は…





「与四郎せんぱぁーい!こっちにナメさんがいるんですよぉー!!」

「めんめんくじらならこっちにもいるべーヨぉ」

「あー!ほんとだぁ!!」

「な!だからこっちさいんべ?」


そうだ。後ろ姿しか見えないがあれは確かに風魔の餓鬼だ。錫高野、与四郎…。

あいつと俺は何度か対峙したことがある。

それもドクササコと風魔が敵対関係にあるからなんだが。

そのほかにも、まあ、少しあったがそれは今はいいだろう。



俺の中のあいつのイメージは常に怒っている五月蠅い餓鬼だ。

いつも噛みついてきて、こちらを睨んでくる瞳が厭に目につく、気に食わない餓鬼。

その餓鬼がこちらに気づくこともなく後輩であろう子供と遊んでいる。

いつもこちらを睨みつけている瞳が他を見ていることに、何故か酷くいらついた。

いっそこちらから仕掛けてやろうかとも思ったが、他の仕事を済ましてきた帰りでこちらもあまり体力がないのは否めない。

恐らく近くに他の風魔の連中もいるだろう。ならば、今は気付かれないうちに去るのが得策だ。

そう思ってはいるのだが、目を離すことができない。

何故なのか自分のことなのにわからないことが腹ただしかった。





そのまま少しの間眺めていたが、あいつはこちらに全く気付かなかった。

口は達者でもやはり餓鬼か…

少し残念な気持ちが起こったのはあいつの力を過大評価していたからで、それ以上でも以下でもないはずだ。



もう、行くか…



今度こそと身体に力を入れ背を向けたとき、盛大な叫び声があたりに響いた。


「わああああああああああ!」

「ど、どうした喜三太!!」

「大きいナメさああああん」


風魔の餓鬼もずっこけてたが俺も危うく木から落ちそうになった。

全く…風魔ってのも呑気なもんだ。

自分の中での去るタイミングを逃してしまいどうしたもんかと思っていると、ひっくり返った拍子に身体の向きが変わったのか、今までこちらに背を向けていたあいつの顔が見えた。








「………!!」









その顔を見た瞬間、今まで動こうとしなかった身体が嘘のように活動し、瞬時にその場から立ち去った。















はぁ… はぁ…



こんなに全力で走ったのは久しぶりだった。

忍者が息を荒げるなど無様にもほどがあるが、そんなことを考える余裕すら今の俺にはなかった。

あれは…何だ…

いや、見たものは理解はしている。何故あんなものでここまで動揺しているのかが理解できない。

振り払おうとしても目の奥に焼き付いて離れない。






ただ あいつが 笑っていただけなのに






この感情には覚えがある。

遠い昔に棄てた、必要のない感情。

なのに…




「………そんなのありかよ」




次あいつにあったときどうすりゃいいんだ…

これからのことを考えて頭を抱えずにはいられなかった。



とりあえず、帰ったら白目殴ろう…。




 お前の笑顔を初めて見た






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