素直な気持ち
 駄目だ、こんなことをしていたところで何も解決にならない。それよりもさっさと寝て、明日の仕事に備えねば。どうせ何をどうしたって同じ基地にいるのだから顔は合わせる羽目になる。いつも通りにしていればいい――たった一回のことに振りまわされてはいけない。

 そうは思うのに、理性と本能は真逆に進む。意識してはいけないと思えば思う程、身体は火照り腰に血液が流れ込む。
 馬鹿か。自分が情けなかった。悔しさとやるせなさが相混ざったかのような気持ち悪さをなんとかしたいとうつ伏せになる。でもそれは逆効果で、無意識のうちにシーツに腰を押しつけてしまった。
「ん……っ」
 ここまで来てはいくら馬鹿かと思おうが情けなく思おうがどうしようもなかった。後悔なら後からいくらでもしたらいい。
 寧ろ、一時でもこの苦しさから逃げれるのなら、それでいいとさえ思えた。

 額をシーツに押し付けたまま、腰を少しだけ浮かせて左手を差し込む。芯を持ち始めたばかりの性器を服の上から握ると、後ろめたさと呆れに似た感覚が押し寄せてきた。今日はこれで三度目かと思うと、尚更波が強まる。
 ただそれも、ゆっくりと上下にさすり始めると徐々に薄まっていってしまった。

「っ……あ」
 服の上からでは物足りなくなり、膝まで下着ごと脱いでしまって直接触る。今更座る気にもなれなくて、そのままの体勢で、何故か彼のことを思い出していた。

『ああ、もしかして期待してました? こういうこと』
 違う。けしてそんなことはなかった。
 帰ってくるのはもっと遅いと考えていた。
 だけど彼のことは頭にあった。それは普段から気になっていたのもあるし、叱り飛ばした直後だったから余計に。
『それなら、中尉もこんなところで独り寂しくオナニーなんかしないですんだのに』
 そう、だからあんな場所でしてしまった。独り寂しく。それは当たり前だと思っていた。

 だって、男の私が男を好きになってしまったのだから。

「ふ……あ、んっ」
 好き。その気持ちを素直に認めると、性器を扱いていた指先が濡れた。それを先端に塗るように指を動かす。彼にされたように、思い出して、真似をする。
「や……っく」
 中途半端に上げていた腰が高く上がってしまった。みっともない体勢とは思いつつも、その羞恥心がさらに自分を煽るどころか、なぜか彼に触られたことを思い出し、臀部の筋肉すらきゅっと硬く縮みあがる。

 仰向けになってしまおうかと考えて、思い留まり右手と額で身体を支える。だって、きっと目の前に誰も――彼がいなくて寂しくなるだろうから。まだあまりにも近い記憶。さきほどまであった熱が、目の前にないなんて。
 ぎゅ、とシーツを握りしめる。額の汗が、その波に染み込んでゆく。

 知らなきゃ良かった。彼の手、声、舌、肌。全て知らなければ、そういうものとして処理できたのに。
 知ってしまった今は、それがとてつもなく愛おしくて、苦しい。目の前にない代わりに自分の皮膚が、粘膜が、耳がそれらを思い出す。その度に身震いをして、私はないことに耐えながら自分を慰めるしかない。

 きゅっ、とくびれを掴んでみる。それも彼がしたように。
「んんっ……あ、や……」
 目の前にいないことも、この手は自分のものだともわかっている。だけどせめて、頭の中だけは彼にされていると思い込みたい。
「ふっ……や、あっ……ん」
『名前呼んでください。俺の名前。それでいっぱい啼いてください』
「あ……リュリュ」
 徐々に手の動きを速めて行くと同時に、力も強めていった。あの手を思い出して、必死に真似しようと左手が動く。今までにないぐらい濡れていて、耳を塞いでしまいたくなるような音が自分の下半身から聞こえてくる。
 


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