「コルネリウスさま、お茶をお持ちしました」
少年ひとりには広すぎる部屋の扉が静かに開かれると、執事のライナルドが現れた。それを机に座り本を読んでいた少年――コルネリウスというこの屋敷の主人が眉ひとつ動かさず出迎える。
サイドテーブルに置かれたティーセットから、ベルガモットの香りが部屋へと漂っていた。
丁寧な所作でひとりぶんの紅茶が注がれる。もう何度も繰り返した通り、スプーン二杯の砂糖をそこへ落としかき混ぜる。
「ああ」
コルネリウス少年はそこでようやく言葉を発した。分厚い書籍に目を落としたまま、さも当然のようにカップを手にし、まだ熱い琥珀の液体をすする。
「明日のご予定ですが」
「学校、のちベーレントの叔母のところへ挨拶」
「さようでございます」
年の頃まだ十三歳の少年は、まるで大人びたように執事へと返し、キリの良いところで本を閉じた。
青い少年の瞳が、執事の姿を見あげる。一回り以上年の離れた執事は、にっこりと微笑んでから「そろそろ就寝の時間です」と口にした。
就寝の時刻など、言われなくてもコルネリウスにはわかっている。それはライナルドにしても言う必要のない台詞だ。
それでもあえて言う。それは週に三回だけ、告げられる言葉だった。
少年は一瞬瞳に熱を滲ませて、しかしすぐにいつもの顔に戻り、席から立ち上がった。そしてそのまま隣にある寝室へと向かう。ライナルドはそれに静かに追従した。
「お召物を」
寝室へ入ってすぐ、ライナルドの声がかかった。いつもなら用意してある寝巻が、今日はまだ用意されていない。
コルネリウスは冷静に、館の当主らしく堂々とした威厳を保っていた。だがそれも、着ていたガウンの腰紐に手が触れた瞬間、なりを潜める。
そして代わりに期待に満ち溢れた瞳を見せる。
ガウンの前をはだけると、その下には何も身につけてはいなかった。どこで覚えたのか挑発的な視線をライナルドへ寄こし、ゆっくりとそれを身から剥いで見せる。
「何も着ていないとは……熱でも出したらどうするのですか。健康な身体を維持するのも大事な務めです」
少年から徐々に大人へと変貌していく過程の身体が現れると、ライナルドの表情が曇った。余計な脂肪のないしなやかな身体と薄い肌が、ゆっくりとこちらへと寄ってくる。
「わ……悪かった。ただその……」
予想外の反応だったのか、コルネリウスがうつむき加減に言うと、耳元にライナルドの唇が近づいた。
「少々、躾が必要なようですね」
そして告げられた言葉に、頬が染まる。