写真を捲かれたくはないだろう?
 目の前に出された携帯端末画面に、俺の咥内は水分を失っていった。
「たいした趣味を持ってるな、あんた」
 それを手にした男が笑う。ゆるいくせっ気のある髪が風に揺れていた。建物の隙間から差し込む光が、男の顔を照らしている。
「いや、その――」
 何か言え、適当なことを言ってかわしてしまうんだ。そうは思えどうまく舌が回らない。その画面に映っているのは俺だった。映っている場所はここから離れていない公園、服装も今日と同じ。間違いなくつい十分ほど前の俺。しかもその雰囲気からあと何枚かは撮られていそうだった。

 この男の目的はなんだ。薄い唇をにやりと歪ませ、俺の出方をうかがっている。やけに高圧的で、体格もいい。
 軍人か。そう気づいたと同時に父親の顔が浮かんできて、思わず頭を振ってしまった。
 その仕草に男が眉を動かす。だが何も言いはしない。その代わり携帯端末にすっと指を添わせて、次の画像を俺に見せつけてきた。
「っ――!!」
 その写真に声にならない声が口をつく。自分ではけして見たくないみっともない姿。
 そんな俺を愉しそうに男は眺め、最悪な台詞を吐く。

「バラ撒かれたくないだろう?」

 どう反応するのが正解なのだろう。これはあきらかに脅しだ。だけど一体なんのメリットがあってしているのか。俺から金を巻き上げるつもりなら、それは見当違いってやつだし、俺を脅してピンチになるような人物なんて近くにはいない。
 いや、例外的に父親はあれだが、こいつが軍人ならそんなことはしないだろう。分が悪過ぎる。
 それにそもそも、お前は誰なんだ。

「そう怯えるな、金なんか興味ない。それに悪いようにはしないさ」
「え?」
「ただちょっと、俺につきあってくれればいい」
 どういう意味だ――そう疑問符が頭に浮かぶ前に男は携帯端末をポケットへとしまい、同時に俺の身体が反転させられていた。しかも膝を落とされて視界が低くなっている。
「なっ、ちょ、何して」
 反転した視界の先には窓があった。カーテンが閉められたそれはうっすらと俺たちの姿を写している。
 不格好に男に抱えられた俺。脇の下から俺を抱え、肩越しに窓を見ている男。いや、窓越しに俺を見ている。

 俺だって体格が悪いわけじゃない。なのに男はつらそうな雰囲気も感じさせず、俺の身体を器用に抱えていた。
「あんまり大きな声は出さないほうがいいと思うが。ああ、違うか。見られるほうが好きなのか」
 窓ガラスに映った男がくつくつと喉を鳴らす。その妖しい雰囲気に、ようやく俺はいったいどういう状況かが掴めてきた。
「いや、待て、おい、違うんだ」
「違う? 真昼間に公園の茂みで、オナニーしてたくせに?」
「っ、あ、あれは!」
「そうか、見られるんじゃなくて、誰かに見られてしまうかもしれない、が好きなのか」

 恥ずかしさよりも危機感が募るものの、頭の中は真っ白だった。どうしたらこの状況から逃げられるのか、それを考えたところでさっきの写真が引っかかる。
「で、見られた結果がこれだ。ああ、そんなに怯えた顔をしたところで、逆効果だ」
「やめ……っ!」
 男の吐息が耳にダイレクトにかかったと同時に、胸に軽い痛みが走った。男の指が乳首をつまみ、まるですり潰すかのごとく擦ってくる。


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