定例会での報告事



「報告があるんだけど…ちょっと気になる人がいるかもしれない」

土曜日。学生の頃からつるんでいる愛莉とアイスとハルと私。偶然にも愛莉は同じ会社のカメラマンとして働いている。昔から写真に興味のあった愛莉は、プロのカメラマンになって自分の夢を叶えていて凄いなぁと思う。できれば来週からの企画も愛莉と一緒に回りたいぐらいなんだけど。とまぁそれは置いといて。

「「「はっ!?」」」

3人声を揃えてこちらを向く。代官山のカフェの一角、ここのフレンチトーストが絶品でよく食べに来ていた。
社会人になってからは、なかなか4人が揃う事も少ない中、晴天の今日、漸くぶりに4人が顔を合わせられたという事もあって私はポツリと自分の気持ちを呟いたのだ。
つい数秒前まではこの気持ちを恋だと認めてはいなかったものの、みんなの顔を見ていたらやはり恋なんだと思えてしまった。なんせ学生時代からの色恋をこの人達は全部知っている。故に誤魔化しはきかないんだと。
当然ながらみんなの顔にはハテナがあがっており。ゴクリとアイスティーを胃に流し込んだ私は胸の奥に潜んでいるその気持ちを言葉に変えてみようと思う。

「好きな人ができたかも、しれない」
「え!?マジでっ!?」

隣に座っているハルが眠たそうだった顔を思いっきり見開く。目の前の愛莉とアイスも興味津々に私を見ている。フレンチトーストに蜂蜜をたっぷりかけて微かに香るバターの香ばしさに鼻をくんくんさせつつも、ナイフで切った一口を反対側のフォークで口に頬張り緩む顔は、このフレンチトーストが甘くて美味しいからだけではない。

「待って、社内の人!?」

私よりドキマギしているのか、愛莉は胸の前で両手をぎゅっと握りしめていて、その横でアイスは涼しい顔でアイスコーヒーをストローで吸っている。同じ会社の愛莉なら、不死川主任と言ったら顔と名前が一致するであろう。それでも今、私はここにいるみんなに伝えたいと思った。だから愛莉の問いかけにコクリと頷くと何故か頬を紅く染める愛莉。

「同じ部署の上司…。好きかもって思ってる」
「!!!!不死川さん!?」
「うん、不死川主任が好き…と思う」
「やだーー!!!ゆき乃可愛い!!!」

愛莉もハルもアイスも笑顔で騒ぐ。学生の頃はよくファミレスのドリンクバーで何時間も同じ時を過ごした仲間。今は場所を変えど、その絆は何一つ変わっていない。たかが恋の報告にこんなにも盛り上がって喜んでくれるなんて、ちょっと嬉しいよね。
彼氏持ちのアイスとハルからしたら私の恋の始まりを優しく見守ってくれているかもしれない。

「え、でもさ、ゆき乃って不死川さんの事嫌いだったような?」

表情をコロコロ変える愛莉は、フレンチトーストをパクつくと小首を傾げた。うん、確かにそうだ。少し前まではあの人の事が大嫌いだと思っていた。だからといって、絶対に好きにならない理由にはそう、ならないんだろうけど。この世に絶対はないんだと思う。
そもそも噂とか見かけだけで不死川主任を近寄り難い人だと思っていた事が間違いだったのだろう。
自分の目で見て接して、初めて人の性格なんて分かっていくものだ。それが分かっているから不死川主任もきっと、他所で自分がどう言われていようが気にしていないのかもしれない。

「そうなんだけど。実際不死川主任の下で仕事するようになったら噂とは違ったし尊敬できる。仕事も的確だし、私3年目で漸く自分の担当持てる事になって、そのチャンスをくれたのも不死川主任で。後、あの顔で優しくて、男らしくて…」

頬が染まっていくのが自分でも分かる。身体中の血液が顔に集中している気がして…たかが好きな人の事を打ち明けているだけだというのに、私の心臓はバクバクしている。

「ベタ惚れじゃん!」

嬉しそうにそう言うハルに、私はまたコクリと頷いた。
そして知るーー恋の始まりを誰かに伝えると、その想いはより一層大きくなっていくものだと。

一ノ瀬ゆき乃、不死川主任が好きです。
いつか彼にそう伝えられる日がくるのだろうか。
今はまだ芽生え始めたこの胸のトキメキが、温かくてふわふわした春の訪れのようなものである事が嬉しく、ただただ純粋にこの気持ちを大事にしたいと願うんだ。
けれど恋は、楽しい事ばかりではないという事を、身をもって知ることになるーーーー

2021.5.31 written by みるく