※新今




肌を刺すような冷たい空気のおかげで吐き出した息が白く色を変えた。ほわほわと宙に舞い上がってやがて消えていく熱気、ぼんやりその様子を見送りながら指先を擦り合わせる今泉は変わってしまった季節の変化を身を持って感じた。確実に自身の体温を奪っていく寒さに身震いを一つ、ぴゅうぴゅうと音を立てる風が更にそれに拍車を掛けるのも好ましくない。季節は完全に冬だった、少し前まで吹いていた筈の秋風がどこか懐かしく思える



「…こんな夜中に来るなんて何かあったんですか?」



コートのポケットに手を突っ込み自分の一歩前を歩く彼にそう声を掛けた。ゆっくり進む足はそのまま、こちらに視線を送る目が細く狭まる



「いや、特に何か用事があった訳じゃないよ。でも強いて言うなら急に今泉くんの顔が見たくなったから、かな?」



歯が浮くような台詞を何の躊躇いもなく簡単に口にする。そんな軽い言葉はどちらかと言えば苦手な方であったのに、今はもう慣れてしまった。なんて返せばいいかは分からないしどんな態度をとっていれば正解なのかも分かってはいないけど、ただ初めの頃より慣れてはきたと思う。ごめんね、いきなり家押しかけちゃって 続ける新開に大丈夫ですと小さく首を振る。同時に『今から外、出られる?』といきなり愛車に乗りながらやってきた新開の姿を思い出す ――きっと箱根から千葉までの距離なんてこの人にとっては何でもないのだろう、流石は箱学のエーススプリンターというべきなのかもしれない―― 相変わらずすごい人だと憧れの念を抱いた、そしてその突拍子もない行動力にも



そんな静かな空間を揺らす新開の声に思考を巡らせながら今泉は宙を仰いだ。真っ暗な黒闇のあちこちに散りばめられた星と、僅かに欠けた月が夜空にぷかりと浮かんでいる。空気が澄んでいるおかげなのか、今夜の夜空はやけに綺麗に見えた



「空綺麗ですね」



「ああ、今夜はいつもより空気が澄んでるのかもしれないな。自転車で走るのも当然気持ちいいけど、たまにはこうやって散歩するのも悪くないね」



確かにこうして自身の足で地面を踏みしめて歩くのも悪くないと思う。お互いが交わす会話と足音以外には音が存在しない世界、風の冷たさ、吐く息の白さに澄んだ夜空― そういったものを改めて感じると自転車に乗っている時とはまた違う発見や心地よさがあって、ああ外に出てきて良かったとも思うのだ。…それはこの人が隣にいるというのも関係しているのだろうか



「ねぇ、今泉くん」



柔らかく名前を呼んだ、新開の手が目の前に差し伸べられる。形のいい唇から同じように白い息が漏れ、やはり空気に触れて消えた




「 宜しければ少しの間俺と手を繋ぎませんか?」




そう言った、まるで紳士を気取っているかのような丁寧な口調は今泉が嫌がることは決してしたくないという想いがありありと取れるようで… ――わざわざ聞かなくてもいいのに、なんて思ったのは絶対に秘密だ―― 何か言葉を返そうと口を開いて、閉じる。



「…繋ぎたいんですか、手」



「うん。君が嫌なら強要はしないけど」



「…俺達、男同士ですよ?」



「はは、そんなのは関係ないよ。それに今なら"寒い"っていう口実で今泉くんと手が繋げるんだからね、」



使わない訳にはいかないじゃないか、穏やかな表情の新開に一瞬目を奪われて…じくじくと胸を焦がす熱に今泉は強く掌を握りしめた。手を差し出す彼がどこか嬉しそうに、そして楽しげに見えるのは気のせいだと…強く握っていた掌を解いて遠慮がちに新開の手に触れる




「……俺から離れないでちゃんと引いてくださいね、」




ああこんなこと自転車に乗っている時でもめったに言わないんじゃないか、なんて紡いだ返事の気恥ずかしさに思わず目線を地に伏せた。さっきまであんなに冷たかった体温がみるみるうちに上昇して顔が熱くなっているのが分かる。前言撤回。やっぱり慣れたなんて嘘だ



柔らかくもちろん、と答える笑顔に全てを見透かされている気分になりながら今泉は掌を包み込む温かさを甘受する。いつの間にか絡み合っていた指同士が目に入り更に温度が上昇したのは認めたくなかった




空の下で、(温度を分け合う)




-----
----
---



初新今、偽物臭がすごい。付き合ってんだか付き合ってないんだか分からないけど両想いなのは確か、新今可愛い



.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -