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駅前で遊馬崎達と待ち合わせをしていると少し…というかかなり目を引かれる光景に出くわした





目を引かれる光景とはさっきから何度も何度も行っては戻り持っている紙を見て辺りを見回しているその子供、そんな風に俺の視界に映るのも何度目か分からないのだから嫌でも目を引かれるのは当然だと言える



(迷子、か何かか…?)



明るいオレンジ色のパーカーに顔には怪我でもしたのか絆創膏が貼ってありぱっと見た感じでは5〜6歳といったところか、小学校に通っているかいないかくらいだ。まだまだ年端も行かない幼い大きめな目に薄く浮かび始めた涙の膜と頼りない姿がやけに危なっかしく…一つ溜め息。そのまま俺は携帯を仕舞い子供の元へと足を進める





おい、と声をかけると小さな体が跳ね子供が恐る恐るこちらを振り返った。どうやら怖がらせてしまったらしい、まぁいきなり知らない人間に話しかけられたら誰でも驚くか…しかも子供なら尚更だろう。出来るだけ背丈を合わせその場にかがみ込む、そして今度はゆっくり頭を撫でる



「悪い、怖がらせちまったよな。わざとじゃないんだが……それよりお前1人か? 親はどこ行ったんだ?」



そう訪ねた瞬間、間違いを拒否するように首を横に振り子供は間を開けて「…1人」と呟いた。少しは怯えを和らげる事が出来たようでか細い声ではあったもののぽつりぽつりと口を開く



「道、分かんなくなって…それで…」



「あーなるほどな、それでか…で、どこ行く気なんだ?」



差し出された紙に書かれていたのは大まかに場所が記された地図で赤ペンで囲んである場所が目的地らしい、確かここは池袋でもそれなりに名の知れたケーキ屋だったような気がする。高校時代に静雄に頼まれて一緒に行った事があったっけ…それなら何とか連れて行ってやれるだろう



「ここからなら歩いて行けるか…そんな時間もかからないし




よし、一緒に行くか?」



「! つ、つれていってくれんの…?」



予想外という驚きの表情に続けて「ああ、」と肯定する。 "少し遅れる" と遊馬崎の携帯にメールを1本送り並んでついて来れる早さで歩き始め…そういやぁ名前聞いてなかったな、一応聞いておいた方がいいか



「とりあえず名前、聞いていいか? なんて呼べばいいか困るし」



何故かぎゅっと俺の服の裾を掴んだまま― 頷いて「ろくじょうちかげ(六条千景)、」と千景は自分の名前を教える



「千景か…ちなみに千景はどこに住んでるんだ?」



「えーと…母さんはさいたまって言ってた」



「さ…!?」



あまりよく分かっていないだろう千景があっさり答えた土地に思わず叫びそうになる。埼玉って…こいつ1人で埼玉から池袋に来たのかよ…もしそうなら凄いや無謀を通り越して恐ろしいとしか言えない。普通の5〜6歳の子供が出来る事じゃない



「んな遠いとこから1人で来てんなら余計危ねぇだろ…」



それにケーキ屋なら埼玉にだって幾らでもあるのだからわざわざ池袋にまで来なくてもいいじゃねぇか、眉間に眉を寄せる。今頃こいつの母親は心配している筈だ、ひょっとしたらあちこち探し回っているかもしれない…そう考えるとこのまま連れて行くのもどうかと思う― だが「だって、」と俯く千景の言葉にその考えはすぐに消えた



「だって母さんがそこのケーキ美味しいっていってたべてたから…




"誕生日"には…よろこぶ顔、みたいじゃん…」



本当に幼い子供の小さな願いだ。勝手に1人で出てきた事に幼いながらも負い目を感じているのかどこか暗い声音で、ただ喜ぶ様子が見たくて母親の為に必死にやって来た千景のそれが正しいかどうかと言われればやはり違うのだろうが…





低い位置にある髪をくしゃくしゃに掻き回す。そして千景が上げたきょとんとした顔に微笑を返した



「…そうか、母さん喜ぶといいな。お前がここまでやってるんだからきっと喜んでくれる」




こんなに母親を想うこいつの気持ちは間違ってるなんて絶対言えねぇだろ? 千景の行動も今日くらいは許されると信じたい。「うん!」と今のみたいに元気よく笑った笑顔の方がこいつにはずっと似合ってるしな











(あ、ねぇねぇ! そういえばオッサンって名前なんて言うの?俺はさっきいったのに教えてくれないなんてズルい!!)




(オッサ…! 歳は一応25前なんだが……あー俺は『門田京平』って名前だ)



(じゃあ『きょーへー』か! よろしくな、きょーへー!!)




((なんだその間延びした呼び方…てか、懐かれたか?))





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