言葉の海に心中






※ヘスガ
※パロ注意
(小説家×優等生な大学生)




俺が彼と交流を持つようになったのはつい最近の事である。初めて出会ったのは確か3ヶ月前程、最後に会ったのは1ヶ月程前だったと思う。ちなみに秒数に表してみると俺は彼に初めて出会った時からおおよそ7862400秒の時間を過ごし、最後に彼と言葉を交わした時からは2592000秒程の間呼吸を繰り返している。秒数に変換してみればかなりの時間が経ったように思えるが世間一般の視点からすればたった3、4ヶ月の間に起こった話である。そもそも何故わざわざ秒数に置き換えるという面倒な事をしたのか分からないがおそらく俺は『自分と彼が恐ろしく長い時間を共に共有している』というその妄言とも言える虚言を誰かに吹き込みたかったのかもしれない。自分のことながら俺自身もこれは理解しがたいのだからこの思考を他の誰かが理解してくれるとも思えないが、そういう事なのだろう。だがこの事から『俺が彼を少なからず気に入っている』というのはきっと分かってもらえたと思う、第一今彼との思い出に意識がゆったりと浸っていっているのがいい証拠だ。決して寝ても冷めてもという訳ではないが割と高い頻度で彼の容姿は不意に頭をよぎる



そんな彼と初めて出会ったのは寒さもピークを迎えたある冬の日の大学内だった。恐れ多くも編集部を通じ囁かながら小さな講演会をさせてもらったのだがその時俺の話に耳を傾けていた生徒の1人が彼であった。深海を連想させるような深い蒼の髪に透き通る白い肌、そこに浮かぶ金の瞳には嫌でも眼を奪われる。彼は教壇から離れた位置に座ってはいたがその容姿の美しさは周りよりも一際異彩を放っていたのを俺は未だ鮮明に覚えている。今思えばあれは一目惚れに酷似していた、講演中にも幾度となく視線を送ってしまっていたしふとそのまま目が合うと昔経験した懐かしい熱さが胸にくすぶった。ノートへ滑らかに字を書き足していく細い指は普段一体何に触れているのだろうと充てもない事を頭の隅で考えいる間にいつの間にか講演の終わりを告げるチャイムは鳴り響いていた。全く情けないと呆れてしまう、失敗せず無事に終わったから良かったものの突然訪れた感情に振り回されるなど…情けないと言わずなんと言おう。だがこの時の俺は学内の講師にでも彼の名前を聞いてみようかと想いを巡らせていたのだから呆れる余裕もなかった、それ程に俺の中で彼との出会いは衝撃的であり同時に青春を彷彿とさせるどこか淡いものだった。幸い最初に声をかけてきたのは意外にも彼の方で色々と手間は省けてくれた、彼の話を聞いていくと彼はシンドウ・スガタという名前で有り難いことに俺のファンというやつでもあるらしい。一端の文書きでしかない俺の作品を好んでよく読んでくれていたという、おまけに俺に会うのも楽しみにしていたと言われてしまえば内心喜んでしまうのも無理はなく流れに身を任せて携帯の番号とアドレスを互いに交換していた。そこから彼との交流は始まったのだが後に人から聞いたところによると彼は学内1の成績を維持している所謂優等生だそうだ、誰もが皆その将来に期待しその容姿に惹かれ陰で崇められている存在…それが彼らしい。彼の口から直接聞いた事はないが確かに彼は俺の目から見ても非常に頭が切れるし、見かけについては言わずもがなだ。憧れてしまうのも仕方のない事だろう。以上から容姿端麗かつ頭脳明晰(個人的に一つ言わせてもらうともう少し笑ってくれれば申し分ないのだがこれはあくまでも一個人の主張に過ぎない)あたかも絵に描いたように完璧な彼である、故に俺は彼と深めている交流を他人に見せつけてやりたい気もするがそれ以上に彼を独占したいなどといった歪んだ欲望の方が強かった。愚かなのは今に始まった事ではない。 机の上で放ったままにされていたコーヒーを一口口にする、当然中身は冷めきっていた。加えて舌を刺激する強い甘さに俺は眉を潜めてしまう、ああいつもより砂糖を入れすぎてしまったのかもしれない。次からは充分に気をつけて入れるとしよう、度を越えて甘過ぎるのも問題だ



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翌日、朝目覚めると彼からメールが届いていた。彼からメールが来るのは一週間ぶりだ、一瞬まさか昨日巡らせていた想いが彼に届いていたのだろうかなどと年頃の女の子達さえびっくりするような事を考えた自身の乙女っぷりには俺とて苦笑を零す。絵文字も顔文字もない質素なメールは非常に彼らしい、内容を簡単に流し読みそれから外に出る準備を始める事にする。事実、流し読むといっても流す必要がある程に長い文字数ではなかったのだが…その辺りは一種の言葉の綾というやつだ、気紛れさは大事だと思う。シャツに腕を通しロケットペンダントを提げる、僅かな小銭とメモ帳にボールペンをポケットに詰め家を出る。何もなければ時間には充分間に合う計算だ、そうこうしてる間に最寄り駅に着き切符を買ったところでタイミングよくやってきた電車に乗り込む。乗客は俺を含めてすぐに数え切れる人数だけで中々に快適だった、ガタンガタンと振動する静かな電車内。ふと窓の外を見ると仲の良さげな3人組の高校生が道を歩いていた、男2人と女1人、果たして彼らはどんな青春を送っているのだろうか。何の変哲もないありふれた風景が気になるのはある意味で職業病なのかもしれない。ゆっくりと、次に俺が顔を上げた頃にはもうその景色は流れてしまっていた



そうして何十分かの間、穏やかに揺られ続け漸くたどり着いた駅は予想以上に酷く寂しげだった。改札をくぐった瞬間潮の匂いが鼻につき辺りに目を配らせる、目の前には彼が言った通り見渡す限りの海が広がっていた。海水浴シーズンからはまだ時期が早いせいか人気は全く感じられない、此処は乗ってきた電車の中よりもずっとずっと静かだった。ザクザク、一歩一歩足音が砂浜に響く。周りに音が伝わっていくのが心地良い。後ろを振り返り地面を見つめると踏みしめてきた砂の上には足跡がくっきりと残っていた、俺がつけた新しい足跡ともう一つ― 俺が行くべき道を違わず教えてくれるそれ。それを辿った先で深い『海』をやっと目にした



「随分早く来てたみたいだ、待ち合わせの時間にはまだ時間があるっていうのに」



「時間より早く来たのはあなたも同じじゃないですか、それに無理やり誘ったのは僕の方ですからね…早く来るのは当たり前だ」



そうでしょう? じっと水面に向けられていた金色に俺の姿を映して彼は薄く微笑む。何度見ても綺麗な笑みだと思う。たとえそれが演技の一つだったとしても、彼の笑顔が美しいのに変わりはない。良い意味でも悪い意味でも人を魅了する表情だ



「…正直来てくれないと思ってたんです、幾らあなたが優しくても来てくれないんじゃないかって」



「久々に君から連絡が来たんだ、無視なんてする訳がないじゃないか。1ヶ月も音沙汰になるくらい優等生は毎日忙しいんだろうしねぇ…」



「ふふっ、本当の優等生は大事な講義をさぼってまでこんな所には来ませんよ」



押し寄せては引いて、引いては押し寄せる。それを繰り返す波が砂をしっとりと濡らしていく、いつまでも乾く予兆を見せないそれが妙に気になり空を仰いだ。ぐずついた灰色の雲に覆われる空は近い内に泣き出すのかもしれない、傘を持ってくれば良かったと後悔する



「もうすぐ一雨来るのかなぁ」



「天気予報は傘を持ってお出かけ下さい、とは言ってましたね」



「へーそうなんだ、見て来れば良かったな天気予報。失敗したよ…で、予報を見てきたというのに君は持って来てないのかい?傘」



「うっかり忘れちゃってたんですよ」



「…俺の事も?」



交わす世間話の隙をみてずっと迫りたかった疑問に突然踏み込む、彼の肩が僅かに跳ねたのが見てとれる。彼を困らせたい訳ではない、けれどどうしても知りたかったから敢えて踏み込んだ。結局俺は彼が関わるとどこまで鈍欲だ



「俺の事をうっかり忘れてたから1ヶ月も会おうとしなかった、とか。もしそんな理由だったならやっぱり寂しいかな、俺はそれなりに君を気にいっているから」



「…それは―」



彼が何かを言おうと口を開く、俯きゆるりと震える長い睫毛に触れたくなる衝動に駆られた。いきなり手を伸ばしてその髪を梳けばどんな反応を示すだろう、細い体を抱き寄せてやればこのどこか憂いを見せる表情は全く違う色に変わるだろうか…彼が声を紡ぎ出す瞬間まで俺の頭を巡っていた好奇心はどれも救えないものだった筈だ






「……あなたの仕事の邪魔をしたくなかったから」






タイミングを見計らったように砂浜にまた波が押し寄せた、彼の言葉と波の音が鼓膜を揺らした



「…好きなんです。自分でも驚く位憧れているしそれ以上に焦がれてる、ほんとに好きなんです」



「それは俺の書く話の事?それとも…」



それとも俺自身の事? と、この時何故そう続けなかったのか。これから先度々俺は不思議に思うに違いない、臆病風にしてはなんとも恨めしかった。しかし「さぁ、何に対してなんでしょうね」笑った彼の眼は俺ではなくもう海の境界線へと向けられていたのだからこれを後の祭りと言わずなんと言おう




海は時に残酷だった





(このまま溺れてしまえたら、)




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なんだかすごくよく分からないものが出来てしまった、ちょっと前にツイッターのヘスガ診断で出た結果を形にしたんですが失敗しました。すいません…



口にするより何倍もスガタが好きなヘッドと憧れ以上にヘッドが好きになってしまったスガタ、ヘスガ好きです



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