の好きなもの」






『デートしよう』



そう言われいきなり連れて来られたこの場所は男だけで入るのは非常に躊躇われたものだった。どこの席を見ても女ばかりが目立つのがその証拠、特に今の時間帯は半数以上が学校帰りの女子高生らしきの姿ときたもんで…そのせいなのか(もしかしたら俺の単なる気のせいなのかもしれないが)余計にこの店内の雰囲気はむずかゆく感じる



「ん?何、門田喰わねぇの?」



フォークを口にくわえながら俺の表情を伺う。間近から漂う甘い匂いのそれを頬張る千景はこの状況においても全く動じる事はない。今口にしているのは赤い苺の乗ったショートケーキ、さっき食べていたのがチーズケーキでその前は…何だったか。はっきり思い出せない。それ位千景によって姿を消していったケーキの数は多かった、更にテーブルの隅に積まれた皿の数も見れば俺がこうなってしまうのも分かるだろう。にしても…確かこんな事が昔にもあった気がする…



「ああ、静雄か…」



デジャヴの元となった昔からの知り合いの顔が浮かんで納得。そういえば学生の時こうして今みたいに来た事があったな、と答えにたどり着いてすっきりとした



「静雄がどうかしたか?」



「いや、今のお前と同じ位喰う奴が居たなって思ってよ」



「ああそういう事。確かに静雄も甘いもん好きだもんな!俺も一緒に喰いに行った事あんだよなぁ…クレープとかアイスとか」



めちゃくちゃ食べてたっけ、口端についた生クリームを器用に舐め取りながら話す千景には「そうか」とだけ返した。内心ではいつどこでそんな事してたんだとか色々ツッコんでやりたい事もあったんだが…何となく聞くのもあれな気がしたから止めた、まぁこいつらの間だから特に対した事も無かっただろう



「お前も静雄もほんとによく喰うな。ちょっと感心するぞ」



「…いや感心っていうか実際呆れてるだろ。いつもハニー達と来る時は食べるのセーブしてるからたまに嫌ってなるまで食いたくなるんだよ」



「…そういうもんか」



「そういうもん、てかさっきも言ったけど喰わねぇならまじで俺が貰うよ?それ」



持っているそれで俺の分のケーキを指し貰おうとするその様子に慌てて自分のフォークをケーキに差し入れた。向こうにあるのだから取りに行けばいいだろうにこいつ本当は俺にある意味嫌がらせしたいだけなんじゃないかと千景の執念には一種の恐怖さえ覚える



選び放題食べ放題で数多く並ぶ色とりどりのケーキの中で皿に取ったのは抹茶ケーキだった。あまり甘いのが得意な方じゃない俺は選ぶ選択肢がかなり限られていた選ぶのにそう時間はかからなかった。薄緑色のそれを一口に切り口に運ぶ、抹茶の苦みに栗の仄かな甘さがじんわりと口一杯に広がったそれは甘いものが苦手な俺でも素直に美味しいと感じるものだった



「どう?美味い?」



「…まぁ…美味い、んじゃないか?」



口に広がった抹茶を舌で味わい咀嚼してから俺は曖昧な感想を呟く。この空間の中はっきりと『美味しい』というのはやはり気恥ずかしい、だが目の前の表情はそんな事全く関係ないといったように感想を聞いた瞬間明るい笑みを零した



「そっか、なら良かった!ここの抹茶ケーキ、んなに甘くないからあんま甘いもん得意じゃねぇ門田でも食べれるかなって思ったんだよな」



どこか安堵が入り混じった笑顔で笑う千景の眼にはしっかりと俺が映っていた。わざわざ俺が食べられるように考えてこの店を選んだのかと思うとその優しさが伝わってきて…酷く嬉しくなる―



「そんな面倒な事しなくてもケーキ喰うなら静雄と来れば良かったんじゃねぇか?」



「だーかーらー『デート』っつっただろ、今日は門田と来たかったの!!それに俺が好きなものを門田にももっと知ってもらいたいし、さ! …門田と喰うケーキはいつもよりずーっと美味い気がするっ」



分かったら時間終わるまで付き合えよな! だが傍らにあったメニューをテーブルに広げて次に食べる甘味を品定めする千景には、今度は俺が笑ってしまう番だった。必死にメニューを見つめて決して顔を上げようとしないのは微妙に頬が赤いからだろうか、そう思うと夢中にケーキを選んでいる様子も愛おしい。…たまにはこういった『デート』も悪くはない、と俺は残った抹茶の甘みをもう一度口にしながら改めて考え直した

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