ベイビーピンクの密会






幾らか時間も過ぎた放課後の校内は普段からは考えられない程静かだ。考えられる理由としては、今、校内にいる生徒は部活に所属している限られた者達だけであるという事と自分が向かっている場所が元々あまり人気の多いとは言えない場所であるから。特に後者は強く数分前から誰ともすれ違う気配はない、ただ廊下に響く自身の足音だけが鼓膜を揺らしていた



赤く染まり始めた空は綺麗に夕焼けへとその色を変えている。そんな変化を見る度にタクトは自分の髪を撫でながら夕焼けのようだと比喩したあの人の言葉を思い出した。それからどうしようもなく想い彼の存在に焦がれる。この感情を恋情だと素直に認めたのはつい最近の事で、そして恐らく…確かな自信を持って直接本人に尋ねた訳でもないが彼も自分と同じ情を自分へと持ってくれていると同時に感じ取った。まぁ、それからは会いたいと毎日そわそわするようになってしまったのだが…我ながら現金だなぁなんて自分に苦笑いを浮かべてしまう



(今日は来るかなぁ…)



ぼんやりそう考えながら漸く辿り着いたお目当ての部屋のドアノブにタクトは手をかけた。扉は予想通り鍵が掛かっていてそれはまだあの人が来ていない事を表している、理事長室と書かれたプレートが掛かる部屋。高校生でもあり理事長でもあるという彼との逢い引きは必ずこの部屋だと決まっている、最初は高校生兼理事長という肩書きは信じ難いものだったが高校生兼人妻のクラスメートだって存在するのだから理事長な高校生だって1人位いてもいいのだろうと自分に言い聞かせて受け入れたものだ



ポケットから鍵を取り出して鍵をかけられた扉の錠を外す。青で彩られたスペードのキーホルダーが付いたこの鍵はわざわざ彼が作ってくれた合い鍵らしく、いつ何時だって自分は片身離さず持っている。無くしでもしたらきっと立ち直れない、これを持っている限り自分は彼にとって特別な人間なんだと信じる事が出来るのだから。大事に握りしめた鍵がしっかりポケットに戻ったのを確認する。いっそ首から掛けられるようにすればいいかもしれない、その方が無くなる可能性ももっと低くなるし便利だろう



扉を閉めて綺麗に片付けられた室内は机とソファー、傍に置かれる観葉植物、整理整頓されたファイルが詰められている本棚といったシンプルな…王道じみた光景が広がっている。まさに絵に描いたように理想的な理事長室という雰囲気のこの部屋が自分と彼の逢い引きの場だ。思っていた通り彼の姿はまだなく部屋の中は無人だった。



ひと息吐いてからタクトは黒い革張りの椅子に腰かける。ゆっくり背中を預ければ小さく音を立てて椅子が傾いたのが分かる、座り心地の良い彼の椅子だ。それを確認して腰かけている椅子を回した。くるりくるりと椅子を回す度流れる景色が視界の端に映り、おかげで部屋の全体を見回す事が出来る。鼻へと微かに香るのはきっと紙の独特な匂いだろう、机に転がっている万年筆を使って自分が居ない間に仕事でもしていたのかもしれない。



(……遅いなぁ…)



回り続ける椅子を足で止めながらどうしようもない寂しさに机へ身を伏せる、実際此処に来てそんなに時間は経っていないというのに…もう物凄く時間が過ぎ去ってしまったように感じるのが酷く辛い。早く会いたいと溢れてくる欲は意識を蝕んで離してはくれなかった。どれだけ恋焦がれているんだと自分で自分を嘲笑ってしまう、こんな感情は絶対に彼の迷惑になるのに― 心の内の寂しさが自己嫌悪に変わっていくのを煩わしく思いながらタクトがさっきより深い溜息を吐こうとした瞬間、扉が開く音がタクトの耳に届いた



待ちに待った音だった。勢いよく顔を上げた先に居る藤色の姿にそれまでくすぶっていた暗い思考は一瞬で色を消す



「今日も来てくれたんだねぇ…もしかして待ったかい?」



「う、ううん!全然待ってないよ。僕も今来た所、ちょうど良かったねっ!!」



本当は待つのがあまりにも寂しくて泣きそうだった、なんて口が裂けても絶対に言えない。言おうものなら押し寄せてくる羞恥やらその他色んな感情ですぐに死んでしまいそうだ。そうか、と呟いて優しく笑う彼の眼に鼓動が少し速まる



「部活終わりでそのまま来た感じかな?」



「いや、今日は部長に用事があるらしくて休みだったんだ。授業終わってからはちょっと暇だったから適当にぶらぶらして時間潰してから来たんだよ」



「へー…でもそれなら最初から此処に居れば良かったんじゃないか?鍵だってあるんだ、静かだし比較的過ごしやすい此処で読書の一つでもしていれば簡単に時間は潰れただろう?」



そう言って絨毯に踏み込み此方に近付いてくる彼から眼を逸らしてタクトは俯く。地獄のような時間でも自分が決して此処で時間を潰そうとはしなかった理由を、彼は分からず聞いているのか違うのか… でも彼ならばそれ位の事は悟っていそうなのが怖い



「本は読まないから読書なんてめったにしないしどれだけ暇でも此処が静かで過ごしやすくても……あなたが居ないこの場所に来たって、意味がないから…」



発熱しているように熱くなる頬を見られたくなくて更に縮こまる体はとても正直だ。言ってから後悔したって所詮は後の祭り、どうする事も出来ないというのに



「…本当に可愛いな、君は。誰にでもそんな事言ってるならいつか痛い目を見るよ」



「だだ、誰にでもって…!そんなの言う訳な…っ」



「ははっ、慌てなくてもちゃんと分かってるさ。からかって悪かった






俺も会いたかったよ、タクト」



君不足になる位には会いたかったさ、顎を掬い上げられ垣間見た瞳は綺麗で大好きな色をしていた。見つめられれば心臓が止まってしまうんじゃないかと疑う程胸が苦しくなる。だがこれが幸せなんだろう、暖かくて心が隅々まで満たされていく 机を挟んで重ねられた唇にその時じんわりと甘さが広がった気がした







-----
----
---



誰 で す か ?←


ヘッドが理事長兼高校生でヘドタクが理事長室で密会してたら萌えるって妄想した結果。あと甘なヘドタクが書きたくて…ちなみにこんなにいちゃついてるのにこの2人はまだ付き合ってません、お互い両想いって分かって(勘付いて)るのに決定的な言葉は伝えてない感じ\(^o^)/


甘々なヘドタクいいと思います


.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -