考まで侵す




※自傷行為注意




(別に死にたいと思ってる訳じゃないこれは絶対に絶対にだ)



(ただこうすれば門田の眼に俺だけが映るから、"それだけ"の話―)



何度も繰り返したせいで残る手首の痕に今日もカッターを押し当てる、確か一昨日は包丁で先週は…何だったっけな。まぁ種類は何であっても刃の冷たさはいつもいつも敏感に感じられてそれには温もりも何にもなくて冷たいだけだから関係ないか、そのままゆっくり手元に刃を引くとあっさり簡単に裂けた皮膚と血管の間、そこからじんわりと徐々に徐々に流れる赤、それをじっと見つめた




じくじくと
流れ
落ちる




どくどくと脈打つ傷口が今痛くないと言えば嘘になる、でもそんな事はどうでもいいんだ、俺は。それより流れる血がシーツに落ちて染みを作っている事の方が何倍も気になる、後はこれ門田に怒られるかなとかもうこの服着んの嫌だなとかそういうので…痛みとかはどうでもいい―




そう言やぁ門田の奴、遅いな…早く戻ってくればいいのに…




ぼーっとそう考えながら血の付いた刃にもう一度手を伸ばした瞬間いきなり手首を掴まれた、切った方じゃないもう片方の手首。指の痕が付くんじゃないかって思うくらい強い力で俺の手首を握る手はいつも暖かくて優しくて― 好きで好きでたまらない門田の手で…




あーもうやっと戻ってきた遅せぇよ、ちゃんと横にいてくれないと嫌なんだって言っただろ俺。持っていたカッターを俺から奪い取って血の付いた刃先を仕舞い門田は手首を掴む力を緩めた



「千景…っ」



お前何やってんだ、代わりにぎゅっと握り締められる門田の掌。爪が食い込んでめちゃくちゃ痛そうに見える、かけてくる声が、音がやけに低く少し震えてるような気がして…それが何だか安心する、酷く心が満たされる感覚




ああ俺の事
心配してくれてる
今門田は…門田の眼には俺しか映ってないんだ、誰の事も見てない。まっすぐにまっすぐに俺だけを見てくれてる―



「…とりあえず止血するぞ、手当てして話はそれから―」



「門田、」



未だに流れる血に眉を寄せまた離れようとした門田に抱きつく、腰に腕を回して離れられないように。そんな俺を見て一瞬何か言い出そうに口を開いたけど結局何も言わずに黙って抱き締め返してくれるのが…嬉しくて嬉しくて仕方ない、譫言のように名前を繰り返す繰り返す




「門田、かど、た…」




好き
好き、
好き、好きだ
大好きなんだ




どうしようもなく
苦しくて痛いくらいに
俺はお前が好きなんだ
門田が好きで好きで
ずっとずっと
お前が側にいないと駄目なんだよ




手当ても何にもしなくていい、これくらい全然大丈夫だし痛くないから…だからどこにも行かないで側にいてよ。じゃないと俺絶対また切っちまうから、お前が好きすぎて今みたいに俺だけを見て欲しくて…だからだから





「門田




好きだ、愛してる」





頼むから
お願いだから
俺だけを見て下さい―





思考まです(『自傷行為』)




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title:アクアリウム
(元エンドレス・コール)




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