ぬいぐるみと眠り姫
※オリジナルキャラ有
時たまにではあるだろうが、人という生き物は物凄い眠気に襲われる事があるらしかった。ちょっと欠伸を零してしまうとか眠くて目が痒いとかそういうレベルじゃないくらいの…はっきり言えば今の俺の状態だ
「…ふ、あーぁ……」
机の上に広がったままのノートを鞄に突っ込む。欠伸をした拍子にじんわり滲んだ視界を拭ってもまだぼんやりとぼやける景色。当然今突っ込んだノートも5、6限の分は全部真っ白だし(まぁ他の時間もあんまり変わらないけれど) 一瞬でも気を抜いたら自分がすぐに眠気に負けてしまうのが分かるくらい瞼も重い訳で……ほんとにこんなに眠くなるのはめったにない事だと思う。4限の体育のバスケに続いて昼休み渋々売られた喧嘩かって、…そっからエトセトラエトセトラ…。昨日ほぼオールだった事もあって疲れたんだろうか、とにかく眠い
(今日はおとなしく、帰った方がいいかもな…)
肩に鞄を引っ掛け、廊下を一歩一歩歩きながらそう考える。この後出掛ける予定も断って…これは冗談抜きで怪我をしそうだ。簡単に短文を打ってメールを送信する。数秒後液晶に表示された『送信しました』の文字を確認して再び欠伸を噛み殺した。そんな中顔を上げた先に前から手を降る数人の少女達の姿が目に映ったのもほぼ同時に思えた
「ろっちー!」
「あれ…ノン?今日は先帰ったと思ってたんだけど…?」
「駅前のゲームセンター行ってたんだ。で、これから皆でカラオケ行くからろっちーもどうかなって一回戻ってきたんだけど……ろっちーこそどうしたの?」
その顔、酷いよ? 首を傾げじっと俺を見るノンに苦笑した。顔酷いって…それはちょっと傷つく。勿論ノンはそういう意味で言ってるんじゃないってのは分かってるけど。せめて可愛いハニー達には格好いいと思われていたい
「スッゴい瞼重そう。眠いの?」
「あはは、ちょっとだけ寝不足かもしんねぇ…けど大丈夫だって」
「ちゃんと寝なきゃ『また』怒られても知らないからね。これあげるから今日は早く帰って寝た方がいいよ」
ぐいっと顔に押し付けられた何かに一瞬息が止まる。慌てて引き剥がしてみるとどこか緩んだ笑顔と『こんにちは』した。もふもふとした感触が手に気持ち良く眼が少し垂れている小動物……リスのような愛らしい生き物のぬいぐるみが何故か俺の腕の中にある
「ぬいぐるみ?」
「それさっきミッキーがクレーンゲームで取ったんだ。可愛いでしょ。しかも二回やって二回とも取ったんだから!ね、ミッキー」
隣にいた長い黒髪の少女にノンは同意を求める。彼女は少し眉間にしわを寄せて言葉を返した
「こらノン。その"ミッキー"って呼び方止めなって言ったでしょうが」
「だってミッキーはミッキーじゃない。それにミッキーって可愛いくない?」
「…そういう問題じゃなくて…」
そんなどこかふわふわした女の子らしい柔らかいやり取りに俺は少なからず和んだ。愛称"ミッキー"こと美希ちゃん。ノンと並んでいるとまるで姉妹にも見える彼女がクレーンゲームが得意だったのは意外な一面だ。…しかもノンの言う通りなら多分俺より上手い
「美希ちゃん、ゲーム得意なんだね…意外だなぁ」
「ノンがどうしてもっていうからね。確かに元々ゲームとかは好きかな?」
「へー……てか、これ俺が貰っていいの?」
正直言えば男がこんなぬいぐるみ持ってぶらついているのはちょっとあれだと思う。だがせっかくのハニーからのプレゼントだ。それを受け取らないなんて事はもっとあり得ない
「ああ、全然いいよ。あたしそういうの興味ないしそれはノンがあんたにあげたんだから六条が迷惑じゃないんなら持って帰ってくれた方が嬉しい。 …それよりノンの言う通りほんと早く帰った方がいいんじゃない?」
「なんなら家まで送ろうか?」 ……ここまで言われてしまうと相当だという事だ。ただ美希ちゃんの後ろから聞こえた「今のろっちーにならうちらでも楽勝じゃない?」とっていうハニー達の笑い声には情けなくて内心泣きそうだった、のは口が裂けても言える訳がない
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ふわふわとした意識はさっきよりも間違いなく危なかった。なんとか無事たどり着いた自宅のベッドに体をしっかりと受け止められながらそう思う。あれから加えて「危ないからバイクでは帰らないで」と言ってくれたノン達の言う通りにして本当に正解だった。…きっとバイクで帰っていたら事故を起こしていただろうから
掛けていた鞄も床に放り投げて、制服から着替えるのも億劫。というより今の俺にそんな力は全くないと言った方が正しい。ただ唯一傍らに置いていた携帯だけがこの霞む視界に映った
(あ…そういえば今日、仕事早く終わるって言ってたっけ…)
泳がせた視線の上にある目覚まし時計の針は17:15。きっと仕事を終えて帰宅している最中だ。そして今日も人込み多い池袋の街をぶらぶらとしているんだろうか。そう考えれば会いたい気持ちがどんどん頭にじんわり広がってくる
(でも、眠い)
それでも思考とは正反対に体は睡眠欲を訴えかけてきて…落ちていく意識に逆らう事を拒否する。 会いたいけどそれ以上に眠い。湧き上がった気持ちを押し込んで、流れに任せてゆっくり眼を閉じた。そこからはもうただ落ちる
(起きたら最初にメールしよ… ぬいぐるみの写メも送ってやろ)
無意識に抱き締めたそれは抱き心地の良い睡眠増幅剤で。規則正しい寝息の中、笑顔を浮かべるこのぬいぐるみが空間に残されるまではもう少しのお話
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そしてその頃の門田さん
千景がぬいぐるみを抱き締めて寝てたら可愛いです。オリジナルキャラのミッキーこと美希ちゃんはいつか書きたいと思ってたので満足です
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