が満ちたその夜に






『きらきらと輝く』 そんな表現で表せる程に澄んだ満天の星空の下で不釣り合いな夕焼けの色合いは浮かんでいる 例えば自分と彼は青と赤で、星空の色とでは黒と赤。対局となる色の筈なのに 砂浜に座り込んだ赤はそこに自然に溶け込んで。綺麗だと素直に思える光景だった



「何してるんだ? 春先とはいえそんな格好だと風邪引くよ?」



じゃりじゃり 一歩一歩彼に距離を縮めた 踏みしめる砂の音に気付いてゆっくり振り返る 本当はもっと早く気付いていたのかもしれないスガタが後ろにいた事を―



「…あ、スガタだ」



そう言って笑う瞳は自分が隣に座る事を拒んではいなかった。少し肌寒い春の夜風を口実に肩が微妙に触れる距離に近付いた事も。押し寄せたさざ波が砂浜から引いた。



「星をさ見てたんだよ」



ここは特に綺麗に見える気がするから。呟いて空を見上げたその眼は確かに星を見ていた。学者だって未だ名前もつけていないだろう星の数々が反映する。綺麗だが同時に不気味にも感じられる。今、見ているそんな夜空を彼と共有しているほんの僅かな喜びと言葉に出来ない感情は口に出す事がおこがましい。



「ここなんだよな。僕が最初に2人に会ったの…」



2人というのは自分と許嫁であるワコの事。この場所に流れ着いた彼を救ったのもワコだ。きっと彼女が見つけなければ彼は死んでいただろう…ただの人工呼吸なのかそれとも違うのか。命の恩人以上の感情を抱いていたとしても仕方ないような気もする、が




「タクト 」




名前を呼んで引き寄せた唇は思っていたよりも柔らかく感じた。重ねて離れて。さっきまで星を眺めていた眼は驚いた様子で此方を見ていた



「…もし君を見つけたのが僕1人だったら、僕はワコと同じような事をしたと思う?」



例えばの事を考える。きりのない例だ。事実は決して変わらないし無駄な事だと理解している。それでも思考を止められないのは…




「…本当に、人工呼吸はキスに含まれると思うか?タクト」




僕自身が彼の存在に友達以上の何かを抱いているからなんだろう。投げかけた問いに答えは返っては来なかった。酸素を求めて口をぱくぱくと閉開する金魚を彷彿とさせるその姿に。これ以上言及をする勇気を合わせてはいなかった




(星が満ちたその夜に何かが変わるというのなら 喜んで身を差し出すというのに)




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