何の突拍子もない話
※下品
「そう言えば千景さんってまだ童貞だったりするんすか?」
シェイクをすすりながら躊躇う事なくいきなり訪ねたそれには流石に驚いたらしい、手元の炭酸飲料を自分と同じようにすすりながら― 街歩く女の子達に目を向けていたストローハットの恋人がとても苦しそうに咽せていたのだから分かりやすい
そりゃあまぁ今の今まで『あそこの席の女の子が可愛い』だの『髪はショートの方が好き』だの…たわいない会話をし合っていたのにいきなり前触れもなくそんな話題を出されれば驚くのも仕方はないか
テーブルに肘をつき容器に刺さったストローを指で曲げる。一方、一応落ち着いて来たらしい恋人はと言えば深呼吸を2,3回繰り返し息は整っては来たもののまだ眼には薄く涙の膜が張られていた…女の子達には格好いい格好いいと言われているんだろうが、俺にしてみればやっぱ普通に可愛い訳で―
「…い、いきなり何だよ」
「いやー何となく気になっただけっすけど…あ、もしかして図星? 『単語』に恥ずかしくなったり?」
「んな訳あるか、ちげぇよ」
ただ驚いただけだ、少し気を損ねたらしい千景…さん、は眉間に眉を寄せた。冷め切ったポテトのLサイズに手を伸ばしそれをかじる、一方その様子を眺めながらふーんと興味のないような態度で俺はストローの口をつつく
「今更そういう話に羞恥持つ程純粋でもねぇよ。仲間内でもよく話してたからな、お前らだって話さねぇ事はないだろ?」
「まぁしない事はないですけど…」
「な? 所詮男ってそんな生き物なんだからよ」
確かに日頃から不特定多数の女をあちこちへ連れ回っているこの恋人に羞恥心や照れ隠しを求めるのは野暮だというものだ。それでも年上の恋人の可愛い一面を見たいという願望くらい持っていたいものではないのか…たとえ野暮で無謀であったとしても間違いではない筈だ、間違いじゃない間違いじゃない
そんな事は到底いや一生知る事もないだろう恋人が摘んでいたポテトのせいで油っぽく光る自身の指を舐め取っている様にそれちょっとエロいかも、とか何とかも思ってみたりしつつ…じっと目を見て口を開く
「で、結局の所どうなんすか? 教えて下さいよ」
「今日はやけにしつこいな、何でそんなに気にすんだか…まぁ別にいいけど」
中味が空になり残った氷が溶け出した液体をすする音が聞こえ始める。てか俺がしつこいのは今に始まった事じゃあないでしょう、あと気になるのはあんたの事だから余計にって事で分かってくれると有り難い
「とりあえず童貞ではねぇよ、ハニー達は皆可愛いしそれなりに数も踏んでるしな」「何か最後だけ聞いてると喧嘩みたいな言い方っすね…千景さん。てかやっぱ経験済みなんだ」
既に経験済みと聞いてがくっとわざとらしく肩を落とす俺
勿論予測はしていたし多分そうなんだろうなと考えていたからそこまでショックでもなかったから、あえてわざとらしく。むしろこいつどうしたんだ何か可哀想、みたいなどこか不審な目でこちらを見られた方のがショックだ
「正臣、お前一体何が言いたいんだよ」
今日はいつにも増して変だぞ、ストローから口を離して千景さんは俺を見ながら続けた
ジュースも飲み終わったみたいだし…よし、店出たらこの後は俺ん家になだれ込む事にしよう、ついでに家にも泊まってもらう事にしようそうしようそうするべきだ。そう悟ってそろそろ店出ます? と立ち上がってトレイを持っていこうとすると案の定俺の腕をぐいっと千景さんは掴んだ、まぁ無視されたら普通に引き留めるし怒りますよね
「無視すんな、ちゃんと説明しろ。 説明しないんなら今日はもう帰るからな」
「何その怖ろしい脅し!?分かってます分かってますから、ちゃんと言いますから!!」
俺のノッてしまったこのテンションを沈めるのはお願いだから止めて下さい、ただでさえ埼玉と池袋じゃ決して毎日会える距離じゃないんだから…ほんとは毎日だって会いたいんすよ?俺は。ああ男相手にここまで考えてしまう辺り俺もこの人に毒されてるなと思う、後悔なんて微塵もないけど…一息吐き俺は笑って疑問に答えた
「ただまだなら『どっち』の『初めて』も貰いたかったなぁって…処女だけじゃなくて千景さんの全部が欲しいかもって思っただけっす」
さぁ突拍子もないって笑えばいいさ!! この突拍子もない若気の至りな欲望を笑ってやって下さい千景さん!!!…
「………お前やっぱり意味分かんねぇ、聞かなきゃ良かったわ…つーか」
馬鹿すぎだろ―
って、せっかく開き直って答えたのにそれは酷いと思います千景さん。
……ところでその逸らされた眼と何故か微妙に赤い顔について深く語り合いたいんですけど俺はこれからどうしたらいいんですか?
ああ前言撤回、
突拍子もない話をした俺…GJ!!!
何の突拍子もない話(そんなとあるファーストフード店での恋仲話)
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