動的行為に心痛む






※ss・小ネタ
『屈辱的行為に身を焦がす』続き
※血・暴力表現注意




(『ねぇこんな事してていいの? 君の最近出来た大事なあの子、』)




大変な事になってるみたいだよ―




小さな嘲笑に眉を潜める、だが突き出された画面に映るその光景に思考回路は一瞬にしてその正確な判断を遮断した



何であいつがその場に居たのか、何で俺にこの事を伝えたのか…そんな事は完全に頭から消え失せ― 俺はただ教えられた場所へ走る。名前も知らないその場所に闇雲に、視界の端に過ぎる街の中意識を蝕む



こびりついて離れない
画面越しに捉えた光景が何度となくフラッシュバックする― 一週間前に会った姿が、俺に向かって『好き』だと笑ったあの笑顔は微塵もなく…あったのは額に流れる血、乱雑に担がれ連れ込まれる姿で。頼むからお願いだから無事でいてくれよ、噛んだ口内がヒリヒリ痛んだ





荒く繰り返される息を感じながらやっとたどり着いたその場所は人気のない寂れた倉庫…メキッ、とねじ開けられた扉が俺の手によって鉄屑に変わる。だが今の俺のに入りこむのは数十人といる集団の向こう側で





されるがままに組み敷かれる千景と卑しい笑みを貼り付けた男、悔しげに男を睨むその表情は反面泣きそうにも歪んでいた。露わにされていた鎖骨辺りに這わされる指に、ねっとりと粘着したような視線が纏わりつく




「…し、ず…っ!」




途切れ途切れたその声が耳に届いた刹那ぷつりと何処からか聞こえた理性の音が― そして真っ白に染まった俺の意識。怒声をあげそのまま男を殴り飛ばす、熱い体を動かす衝動のままに。数十の数を殴る蹴る叩きつけひたすらに殴る蹴る殴る殴る…俺は暴力が嫌いだ。それでも自分を止める事はしない、例え1人でも殺してしまう事になったとしても― 俺は……





気がついた時には一面に転がり倒れる人間と返り血に濡れた自分だけが立っていた。少しも動かない惨状にやっぱり1人くらいは殺してしまったかもしれないと巡る思考はそれでもやけに冷静で、まるで遠い世界の事のようだと。紅が付着するグラサンを胸にしまい振り返った先でこちらを見ていた千景の肩がびくりと跳ねる




「静、雄…」




吐き出された声音はかすれていた




身に纏うジャケットが、シャツは破け形状は崩れ穴が開き




頭だけでなく口端にも付着した血が固まりそれが所々黒く赤黒く…変色したその色が痛々しい




ああ痛い
痛々しい
痛いイタいイタ、イ…




心が、痛い―




「千景、」




名前を呼び傷つけないように抱き締めた千景はいつもよりずっとずっと小さく…酷く脆い存在(もの)で。そこにいるのは族の総長といった強い存在ではない…年端もいかない淡く弱いただの『六条千景』だった





「千景、千景…っ」





ごめん
ごめんな
ちゃんと守ってやれなくて、お前はほんとは『弱くて』強いだけなんだって俺は分かってた、それなのに…俺は




「何で、あんたが謝るんだよ…馬鹿。静雄は、俺を助けてくれたじゃんか」




繰り返し繰り返し痛いイタイと心が疼く、俺より何倍も痛いのは千景の筈なのに…謝る俺に千景はそんな苦しげな強がりだけを呟いた




「悪いのは俺なんだ、だから静雄が謝るワケなんてない。大丈夫…俺は、大丈夫だよ?静雄―」




大丈夫だから、そう言って浮かべた自虐的な笑みを見たくなくて俺は目の前の肩に顔を埋めた。こんな時でも変わらない匂いが切なくて目頭が熱く滲む





笑うな
笑うなよ
そんな風に笑うな
俺が好きなのはそんな笑顔じゃねぇ。笑わずこんな時くらい泣けばいいだろ、なぁ何で泣かないんだよ? 俺が泣いたって意味ないんだ…頼むからさ

今は
泣いてくれよ―





衝動的行為に痛む




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