猫日和






(俺は意外とこいつに
弱い所があったらしい―)



「あ、」



休憩の合間昼食を買いにコンビニへと向かった帰り道、公園の中で偶然見知った顔を見つけた。噴水の傍近くに片膝をついて座っているその姿は見間違いなく静雄が最近知り合った― 六条千景、本人であるようで未だに帽子から覗く白い布地に、こいつまた怪我したのかとぼんやりそんな事を考えさせられる。



そうこうしていると後ろから話しかける前に振り返った千景と眼があった。明るい無邪気げなその笑顔はまだまだ子供らしい



「よぉ静雄! 久しぶり…でもないか、てか今日仕事休みだっけ?」



「いや、昼飯喰うから今は休憩中…てか、お前んなとこで何してんだよ?」



いつも周りにいる筈の女を1人も連れず、たった1人で片膝をついて座り込んでいる千景に静雄は首を傾げる。何かあるのかと伺い見てみれば千景の膝にすり寄る小さな『黒』の姿がそこにはいた



「…黒猫?」



視界に映る生き物にぽつりと呟く静雄。ふわふわとした柔らかそうな黒い毛を纏う小さな猫は呟いた静雄に答えるように鳴き声をあげ、その様子はとても愛らしく感じられる



「さっきここ通ろうとしたら寄ってきてさー、何か懐かれたっぽいんだよな」



そう言ってそっと膝下にいる黒を腕に抱き上げ千景は静雄の目の前に猫を差し出す。ほら、と促され恐る恐る黒い毛を撫でると予想通りその触り心地は柔らかく気持ちが良い。どうやら触る事に拒絶はされなかったようで静雄は思わず口元を緩ませながら安堵の息を吐いた



「野良猫かなんかか? あんま見ない顔だけどな…」



「まぁ普通にそうなんじゃねぇの。 というか静雄って動物好きなんだ、意外だわ」



「…悪ぃか?」



「いや全然っ!むしろ可愛いなって思っただけですすいません! だから、そんな怖い顔すんなって!!」



眉を寄せ始めた静雄の纏う空気が一瞬冷たくなった事を感じ取った千景は慌てて謝りの言葉を入れる、猫の存在とすぐに誤解を解いたおかげか静雄は少し千景を見ただけで機嫌を損ねる事はなかったようで…千景は先程の静雄とは違った意味で安堵した



「俺が可愛いとか…頭大丈夫か、医者行け医者。……てかよぉ…」



抱き上げられ未だ飽きずすりすりと千景にすり寄ったままの猫に静雄はそう続けてちらりと目を向ける。それにしても腕、掌と続いて自身の体を押し付けるこの懐きようは…微笑ましいを通り越して不思議に思う。…マタタビかなにか付けているんじゃないかと疑う程に…いや、別に嫉妬とかではなく



「ちょっと…懐きすぎじゃね? お前に」



静雄の言葉にんー、そうかー?と千景は黒猫の頭を一つ撫で返した。撫でられた猫は心地よさそうに喉を鳴らす、心地よさそうに心地よさそうに…それを感じ取ったらしい千景はふにゃりと表情を緩ませた笑みを静雄に見せた




「"可愛い"し別に構わねぇよ。ハニー達にも見せてやろうかな……って、静雄?」




「……っ!」




聞こえるか聞こえないか程の舌打ちを零し静雄は千景のストローハットの鍔をぐいっと下げる。ちょ、静雄!?と隠された千景の視界から今の静雄の姿は見えてはいない見られていない…それを確認して静雄は金色の髪をくしゃりと掻き回す




(くそ…"可愛い"のはどっちだ…っ!!)




さっきまで猫が可愛いと思っていたのに今はこいつの方が可愛い、なんて思ってしまっている事が何だか癪に触る。しかもまだ仕事があるというのに…




(離れづらくなっちまったじゃねぇか!! どうすんだよ…っ)




そんな事を悶々と悩み続けるはめになった静雄はもっぱらの原因である千景とその腕に収まる何の罪もない黒い生き物を恨んだ




その時猫は何も知らずニャーと鳴いた




猫日和(何なになに、俺なんか静雄怒らす事した?)(うるせぇ!…してねぇけどしたんだよ!!)(いやそれどっちよ!!?)



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