機嫌取りの正しいやり方






(もっともっと君に愛されたいと心からそう願うのです)



『不機嫌』 今のこいつを一言で表すならその言葉が一番ぴったりとくる訳で、勿論その原因が俺にあるのは分かっている。少し前を足早に歩く後ろ姿は表情を見なくても怒っている…というか拗ねているのがあからさまに分かりさっきからこっちに振り向かないのも証拠の一つ



「俺が悪かった、だからいい加減機嫌治せよ…千景」



「はぁ?俺機嫌とか悪くないし普通だけど? 門田の気のせいなんじゃねぇの」



「……あのなぁ…」



いつもより数段は嫌みな言い方に返す言葉は消える、一体このやり取りも何回目だろうか。数えるのはもう辞めた。謝る度に『拗ねてない』『怒ってない』の一点張りで全く話が進まないのだから流石に頭が痛くなってくる…ポケットに手を突っ込むその姿が拗ねていないなら何だと言うんだ、教えて欲しい





微妙に丸くなっている背中に自然と零れる溜め息。ああ分かってるんだよ、原因は俺だって事は。 お前との待ち合わせてた時間に遅れた俺が悪いんだって事は。…ただいつもなら(いや滅多に遅れる事はないが)謝れば笑って許してくれる千景が今こんなにも不機嫌になっている理由だけが分からなかった…偶然虫の居所が悪かったのかもしれない。あるいは今日はこんな俺に苛ついたのかもしれない― まぁなんであろうと俺には千景の機嫌が治るまで謝るしかないんだが。せっかく一緒にいるんだから時間を楽しみたいし……触れ合ったりしたい




「ちか―」




「……別にさ、」




今度は肩に手を置いて名前を呼ぼうとした声がぴたりと足を止めた千景によって破られる。やっと此方を振り返った千景の表情は怒りの色は未熟もなく、どこか寂しげで複雑そうなものに見え…驚いた。『何でそんな顔してんだ』 そう俺が聞くより先に千景が続けて口を開く




「俺、門田が遅れた事なんかにはほんとに怒ってないから。俺だって何回も遅れた事あるんだしそれに遅れたっつってもたった5分だけだし……ただ俺と会う約束してんのに静雄と話してたから遅れたっていうのが嫌だっただけで…」




ガキだって笑いたきゃ笑えよ、微かに指の隙間から覗く赤く色付いた目尻は『ああそうか』と納得するのには充分で。遅れた訳を話した時にほんの一瞬だけ眉を潜めていた事もそれかと





つまりは至極愛くるしい『やきもち』なんて感情―




「千景」




途端に溢れてきた衝動のまま触れるだけのキスで口を塞いだ。その時の俺は珍しく人の眼なんて気にならなくて、千景を閉じこめた腕を解く気にもならなかった― ああ笑える訳がない笑う訳がない…もしそんなお前を嘲笑う奴がいたら、今の俺は手加減なしにそいつを全力で潰してしまうかもしれない


「ごめんな。遅れて本当に悪かった、その代わりに今からの俺の時間を全部お前にやるから……だから」





だからそれで機嫌治してくれねぇか?





逃げられないくらい強くしっかりと抱きしめて耳元に囁いた。 反対に恐る恐るゆっくりと返された手が震えていたのさえ愛しい、のはとっくに重症か




それから「…あんた、ずりぃよ」って? なんとでも言え、これでもお前の扱い方には誰よりも自信があるんでな


機嫌取りの正しいやり方(ならば、お望み通りもっともっと愛し尽くしてあげましょう)




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※企画提出文



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