※天捲天
※かえる灰皿目線




1.天気:くもり


「・・・おーい、生きてる?」



突然、世界に降ってきた音は聞き慣れないものだった。連日まだ消化できていないのに、ご飯を与えられ続け吐きそうになっていたぼくとぼくがこんな状態になる原因を作っているご主人。そして混沌とした世界、その中で目の前の人の存在はとても浮いている気がした。大量の本に埋れていたご主人を目の前の人は引き上げる。これがご主人とあの人の出会い、世界が生まれ変わった瞬間だった



2.天気:はれ ときどき くもり


全身黒ずくめのあの人はたちまちぼくらの救世主になった。たとえどれだけご主人が世界の秩序を乱しても、てきぱき動いて数時間後には見違えるほど綺麗にしてくれる。なかなか外見からは想像がつかないけど、あの人はかなりの綺麗好きらしい(あの人本人の言葉を借りるなら"家庭的"なんだそう) ぼくらに触れる手も、時々乱暴なことはあるけれど基本的には優しくて。初めは少し疑心暗鬼に感じていた低めの声だって今はとっても心地良い、でもご主人はそうじゃないらしい。あの人と仲良くしているけど、なんだか表情が硬い気がするんだ。こんなにいい人なのになぁ・・・



3.天気:なし


お仕事のためご主人は不在。いつも着ている白衣も今日ばかりはお休みで、ご主人は黒ずくめの姿で出掛けていった。そういえば今日はあの人の初お仕事の日でもあるらしい。ぼくは空腹のままお仕事に奮闘する2人の姿を想像した。思っていた以上に上手くいかない、だからぼくは大人しく2人の帰りを待ち続けることにした



4.天気:はれ


ご主人とあの人が帰ってきた。ぱっと見た感じでは大した怪我もないみたいで、ご主人はさっそく煙草をふかしている。けれど、どことなくお仕事に行く前よりご主人は柔らかくなった。あの人といる時も前より楽しそうに見える。何があったのかはさっぱり分からないけれど、2人が仲良くなったのはいいことだ



5.天気:はれ


あんなに綺麗な世界だったのにいつの間にか本の塔が出来ていた。これはまずい流れ



6.天気:くもり


塔の数が日に日に増えていく・・なんて言っている間に一つ崩れた。ご主人の姿が見当たらないので多分雪崩に巻き込まれたんだろなぁ



7.天気:くもり のち かみなり


救世主の手によってご主人と世界が救出される。同時に小さな雷が落ちたけれど、ご主人はびくともしない。そんなご主人に呆れているあの人にぼくは同情する



8.天気:はれ


うちのご主人は麗しいと評判らしい、確かにたまにぼくらの世界へやってくる人達と比べてみるとよく分かる。ご主人は麗しい、いわゆる美人というやつだ。けど、中身はどうなんだろう。ただの美人ではない気がする



「・・・お前ほんといいのは外面だけだな」


「あれ、性格もいいと思ってたんですか?」


「まぁ"イイ性格"してんなァとは思ってるけど?」


「・・それ、あなたに言われたくありませんね」



やっぱりあの人曰くいいのは外面だけらしい



9.天気:はれ


この世界に住むようになって気付いたことがいくつかある、ひとつはご主人が信じられないくらいヘビースモーカーなこと。そしてもう一つはあの人が傍にいる時ご主人はとても美味そうに煙草を吸うということ。ほら、今みたいに。今日も2つの違う味のするご飯が僕の口へと次々に詰め込まれていく、おかげで僕は絶賛消化不良中



10.天気:はれ


ご主人とあの人が"夫婦"みたいだと言われているのを聞いた。確かにそうかもしれない



11.天気:あめ


もう何日もあの人が来ていない日が続いている、おかげでご主人の気分はやや低下気味。ご主人は気付いていないかもしれないけどただでさえ多い煙草の本数がどんどん増えていってる、そろそろご主人の体もぼくの胃も限界が近い。このままじゃ消化不良で胃もたれしそうだ。早く戻ってきてくれないかなぁ・・・



12.天気:はれ


お風呂場から2人の声が聞こえる。また湯船に浸かっている間に寝こけてしまったご主人をあの人が注意してるらしい。最近、あの人がご主人のおかあさんみたいに見える時があるんだけどぼくの気のせいなのかなぁ



13.天気:はれ


× おかあさん
○ 世話焼き女房



14.天気:はれ ときどき かみなり


特に目立ったこともない平和な一日。あえて言うなら今日は靴下のことでご主人があの人に怒られていた。脱いだ靴下はきちんと洗濯籠に入れなきゃいけないらしい



15.天気:はれ


夜中に小さな酒盛り大会が開催される。美味しいお酒と美味しいおつまみ、そのお供には桜の木。和やかに過ぎる時間。でも珍しく先に潰れてしまったあの人を見るご主人の顔がなによりぼくには印象深かったかもしれない



16.天気:おおあらし


今日はいつもと比べて世界が煩い。理由は簡単、ご主人とあの人が珍しく言い合いの喧嘩をしてるからだ。最初は普通の会話だったんだけど次第に2人共過激になっていって、今や殴り合いになってないのが不思議なくらい空気がピリピリしてる。普段の比較的穏やかな雰囲気は完全に飛んでしまっている。ご主人とこの人が作り出す空気はぼくらの世界の天気みたいなものだ、穏やかであれば一日平和に過ごせる。だからぼくらも2人の言い合いをハラハラしながら見守っていた



「あ"ぁもうやってらんねぇ!てめぇ1人で好き勝手やってろ!!」



半ば投げやりに叫んでからあの人が扉を蹴破らんばかりに出て行く。途端、世界は静かになった。ぼくらに痛感はないけれど、きっとこの静けさは痛いんだと思う。ご主人はしばらくの間じっと扉を見つめていた、何を考えているのか分からない表情だった。あちこちに本が散らばる床に座ってご主人は頭を掻く、ご主人がぼやいた言葉はぼくらの世界の端から端までちゃんと響き渡っていた



「・・・はぁ、なんでこうなるんだろうなぁ・・」



・・うん、早く仲直りが出来るといいなぁ



17.天気:あめ


空気がじめじめしてる、昔体験したことがある梅雨を思い出した



18.天気:あめ


未だに世界は梅雨模様、空ける気配はしない



19.天気:あめ のち はれ


嵐が来るのが突然なら梅雨が空けるのも突然だった。控えめなノックと共にやって来たあの人を見てぼくはとても安心する。あれから約2日、それはとっても短いような長いような・・・もしかしたらもう二度と来ないんじゃないか、なんてことも思ったりした。ひとまずその可能性はなくなったけど、話はきっとこれからだ。何にも言わずご主人とあの人はお互いをじっと見つめている、まず最初に動いたのはご主人じゃなくてあの人だった



「この前は悪かった、流石にあれは俺が言い過ぎだった」



綺麗な背筋のまま頭を下げてご主人に謝る。"俺が言い過ぎだった" そんな言い方で謝るこの人はご主人のことをよく分かってるんだと思う、ご主人は素直じゃないから・・だから今だってこんな風に言い返す



「・・結局お互い馬鹿だったんですよねぇ、あんな些細なことで子供みたいに言い争って」



ほんとはどっちでも良かったんです、あなたの作戦でも別の作戦でも。冷静に見えて意外と熱くなりやすいご主人は、一度キレたら周りが見えなくなる質なんだろう。どこまでも意固地になって、ただ自分の意見を貫き通そうとして、そして冷めたあとに1人で後悔する。でも悪いと思ってても自分からは動けない。動かないといけないってことを分かってても動けない。ぼくはご主人をそんな不器用な人なんだと思ってるから・・・この人にはずっとご主人の傍にいて欲しい。2人仲良くしてて欲しいんだ



「捲簾、」



ご主人があの人の名前を呼ぶ。申し訳なさそうな、けれど少し嬉しそうでもある声。続けられたご主人の言葉にあの人も小さく笑っていた



「・・・すいませんでした」


「・・おー」



仲直りが出来て本当に良かった




番外編.天気:くもり


ご主人がお出掛け中にあの人がやって来た。2、3度辺りを見回してから(間違いなくご主人がどこかに埋まってないか確認したんだと思う) ご主人が留守なのを確信したみたい。お目当てのご主人の姿がないならここにいる意味はない。このまま大人しく帰るんだろうなぁ、って考えてたらあの人はぼくの予想を裏切って机を背凭れにしながら床に座った。ご主人の帰りを待つことにしたみたいだ、煙草を取り出してのんびり吸い始めたから。この人が与えてくれるご飯の味は色々だ。濃かったり薄かったり、でも基本的にはご主人が与えてくれるご飯より苦いものが多い。ご主人が与えてくれるご飯は匂いも味もとっても甘い、その甘さに慣れてしまっているから最初に苦いご飯を食べた時はちょっとびっくりしてしまったくらいだ。ご主人は煙草に拘りがあるけどこの人はあまり拘りがない、煙草よりもお酒の方が好きなんだって誰かが言ってた気がする。けど、この人から与えられるご飯がぼくは結構好きだ。甘いものばっかり食べてると飽きてくるからやっぱり苦いものも食べたくなる



ご主人に比べるとかなりゆっくりな早さで口の中にご飯が詰め込まれていく。静かに過ぎる時間がなんだか心地良い。・・・うん、いいなぁ、この時間・・なんだかとってもいい・・・多分ぼくが普通の人だったら眠ってるんじゃないかなって思う。穏やかで心地良くて、好きだ。・・まぁぼくがそう思っててもこの人は違うんだろうけど



「仕事ほっぽり出してどーこ行ってんだかなァ、あいつは」



あーあほんとに仲良しなんだから、これじゃあ他の人が入る隙間なんてないよ




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天ちゃんのかえる灰皿目線の天捲天、書いてる間に収支つかなくなっつきたのは秘密。心の奥底に「あの人なら何をしても許してくれるだろう、多分怒るけど」ってのが根付いてて捲兄ちゃんに対してだけ我儘というか理不尽さ発揮する天ちゃん萌えです



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