※光←烏



月に似た色をしている髪を一房、掌で掬う。さらさらとした感触を楽しむように細く長い指はそれを絡め取り弄ぶ、だがどれだけ遊んでも必ず最後は自身の指の間からすり抜けていく。まるでどこかの誰かさんみたいだと烏哭は僅かに目を細めた



「やめたんだ、ポニーテール」



数ヶ月前まで一つに纏められていた光明の髪を思い出す、出逢った頃から何度となく馬鹿にしてきた髪型。それが今や見る影も無い、己が知らない間に変わってしまった。少し形が崩れた三つ編み



「あぁ、これは江流が編んでくれたんですよ。私のために一生懸命編んでくれる姿がほんとに可愛くて…あの子が編んでくれるなら三つ編みも悪くないかなと」



穏やかな微笑の中に愛弟子への愛おしさが垣間見える。決して己には向けられることはないだろう暖かな感情が言葉の端々に滲んでいた、光明の愛情を一心に受けている江流が妬ましいとは思わない。江流のいる場所をこの手で奪いたいと感じたこともない。ただ時々江流を見ていると体の奥深くにあるどこかが疼くような錯覚に陥る、まだ痛みには届かない小さな疼きが生じる。勿論その正体が何なのかおおよそ理解はつく、だが理解は出来ていてもそのことを認めたくはなかった。実にくだらないプライドだと嘲笑う、そんなものいっそ捨てられたらいいのに



「三つ編みねぇ…僕は前の方が好きだけどなァ、あんたにはあのポニーテールが一番似合うよ」



口元を歪ませたまま手に取った月に口付ける、烏哭の黒い瞳に光明だけが映り込む



「そうですか? でも、すいません」



あの子がいる限りこれからはずっと三つ編みでいますよ



「…つれないなぁ」



僅かに立てた爪で編み込みを乱した



(編み込んだ月)




※烏+ちびヘイ(光←烏)



僅かに開いていた扉から中の様子を伺ってみると鴉がソファの上で寝こけていた。マスター曰く昨晩もまた街に繰り出していたらしく帰りは早朝だったらしい、読みかけの本を腹に乗せ眠るその姿に溜息を吐いた。読んでいる最中に眠気に負けたといったところか、だらしがないとはまさにこのことだ



(…風邪引かれても困るしなァ、マスターの言う通り世話のかかるお人や)



風邪を引かぬようにと渋々毛布を引っ張り出しそっとかけてやる。広がっている髪はまるで羽のようだった、飄々とした掴みどころのない冷たさを持った真っ黒な鴉。出会った瞬間からあまりいい印象は持っていないが、こうして穏やかな寝息を立てているのを見ている分には案外悪くなかった。突ついてこなければ、鋭い目で見られさえしなければ、どれだけ気味が悪くても害はない



(…って、ウチはなにやってんねん!はよ部屋戻らんと)



他人の寝顔を盗み見し続けるなんてなんとも悪趣味だ。我にかえり部屋に戻ろうと立ち上がる、しかし同時に静かに動いた唇に目を奪われた 「……ょ、う」



それは上手く聞き取れない、消えそうな譫言だった



「……こ…ょう…こう、みょう」



繰り返し繰り返し一つの名前を唱え哭く鴉に心臓を強く鷲掴みにされた気がした。いつもとはあまりに違いすぎる。このまま死んでしまうんじゃないかと思ってしまう弱弱しい声音、これじゃあ烏じゃなくてまるで兎みたいじゃないか。寂しいと死んでしまう、弱い生き物ー



(…誰なんやろ、『こうみょう』って)



どれだけ気になっても直接聞くことは出来ない。これ以上聞いてはいけない触れてはいけない、そんな部分である気がした。でもきっとその人は鴉にとってとても大事な人なんだろう、自分にとってのマスターのような…絶対的な存在。生きているのか死んでいるのか、それさえ知る手段はない。けれど、鴉の哭き声を聞いているだけでなんとなく悟ってしまった。多分もうその人は鴉の近くにはいない。もう二度と会うことも声を聞くことも出来ないのだ



こみ上げてくる胸の奥の痛みに耐えきれなくなって部屋を飛び出した。自分もいつか大事な人を失ってしまったらあんな風に泣くのだろうか、独りきりで言葉にならない想いを愛おしい名前に変えて。何度も何度も、繰り返し呼ぶのかもしれない。見たこともない"こうみょう"の傍で幸せそうに笑う鴉を想像しようとした、案の定上手くはいかなかった



(Call your name)



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光烏にしたいのにどうしても光←烏になってしまう不思議、ちびヘイ様と烏哭さんのコンビが可愛くて好き。普段はそんな素振り一切見せないのに深層心理では光明さんを求めてやまない烏哭さんに萌えます。なんだかんだで私は片想い拗らせてる烏哭さんが大好きです



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