※真久保



(この場所に光なんてない)



頭に鈍い痛みが走る、心無しかいつもより視界も暗い。時々周りの景色がぶれて映るから殴られてはまずいところだったのかもしれなかった。今眼鏡無くしたら視界真っ暗になるかも、なんてどうでもいいことを考えながら煙草に火を付ける。今日も見えない、明日も見えない。ついでに言えば未来も真っ暗。腕の中にあるのは焼き切れた過去と鼻につく火薬の匂いと、いつまでも燻り続ける渇きだけ。けど、それさえも、割とどうでも良くてーー



「やぁ、おかえり。随分とお疲れのようだね」


「・・・どーも」



事務所にいた真田さんには何も言わなかった。"おかえり"という迎えの言葉が恐ろしいくらい胸に響かない、こんなにも何も感じない"おかえり"がここにはあるのだとぼんやり思った。灰皿に残る数本の吸殻、部屋に充満するアークロイヤルにセブンスターの煙が飲まれていく。 救急箱、どこに置いてあったかなぁ・・いつも小宮に任せっきりだから覚えてない。てか小宮はどこ行ったんだろ、今日も集金? あ、そういえば駅前のコンビニ新商品出てたっけ。帰りに覗いていこうか



「君が怪我をして帰ってくるなんてな、珍しいこともあるものだ。油断でもしたのかな?」



座っていたソファが真田さんの重さを受けて軋む、一瞬この人がここにいることを忘れた



「あーまぁ、否定は出来ないかも?」



後ろから鉄パイプで一撃、確かに油断してたとしか思えないドジを踏んだ。拳を避け切れずに切れた口端といい久々に間抜けすぎる怪我をしたかもしれない。いや生死を彷徨うような怪我じゃないだけ全然ましだろうけど



真田さんの指が口端の傷に触れた、鋭く走った痛みは結構痛い。乾いた血の下からまた薄っすらと赤が滲む



「可哀想に、これでは綺麗な顔が台無しだ。まぁこれはこれでそそられるものはあるがね」


「…真田さん趣味悪い、って言われてません?」


「一応趣味はいい方だと自負しているよ」


「へー、そう」


「興味があるかい?」


「…別に、どーでも」



噛み切るようなそれは錆びた鉄の味がした。辺りが真っ暗になる




(傷口と虚無)





※葛+久保
※同居時代、Dice 42のネタバレ注意



カレーの作り方を教えることにした、おそらく俺がこいつに教えられる数少ないなにかだ



非常に危なっかしい手つきで誠人が淡々と包丁を動かす、俺も人のことを言えるような料理の腕を持っている訳ではないがそれでもこいつよりは幾らかましだ。形が不揃いなじゃがいもや人参がまな板の上に転がる、それらはどれも凹凸があってお世辞にも綺麗とは言えないものだった。器用なようで不器用な、甘えることも何もかも分からなくなったこの甥と少し似ている。歪で正しい形を無くし凹凸だけが増えていく、だがそれでも確かに野菜も甥もここに存在している。今、俺の目の前にある。絆創膏が貼ってある指に笑いを零すと誠人が不思議そうに首を傾げた。そうしていると案外年相応に見えないこともない



切るものを全て切り終えたらカレーなんてあとは簡単なもので、鍋に貼った水にルーと野菜と肉を適当にぶち込んで適当に煮込めば完成だ。あれだけ凹凸だった野菜も煮込んで口に入れてしまえば全部同じ、元々俺も誠人も料理に見かけの良さなんて求めない人種だ、要は喰えりゃあいい。狭いテーブルに向い合って喰い始める、味は悪くなかった。ちょっとじゃがいもに芯が残っている気がしたが許容範囲内、初めてにしてはまぁ文句はない出来だろう。そして考えていたことはお互い同じだったらしい、カレーを口に運びながら誠人がぼんやりとした感想を呟いた



「うーん結構イケる、のかな?コレ」


「…なんだそりゃ、普通に"美味い"でいいだろが」


「んーじゃあ"美味い"ね」



曖昧な物言いは到底中坊のガキとは思えなかったがそれを諭すなんて今更なこと、ガキはガキらしく入ればいいなんてこいつには酷な話に違いない。だからそのことに俺がとやかく言うつもりはない、ただ見届けてやれたらいいとは思う。こいつが、誠人がこれから先誰と出会いどうなっていくのか…それを最後まで見届けてやるのがきっと叔父である俺の役目だ



腕を伸ばして乱雑に誠人の頭を撫で回した、人を撫でているというよりは犬を撫でているに近い感覚だった。初めてやったことだったが誠人は俺の手を振り払うことなく髪がぐしゃぐしゃになるまで大人しくしていた




(カレー記念日)





※時久保時
※リバ



ふとよく分からないけどキスしたくなった、別に特別なにかがあった訳じゃないけど突然。もしかしたら原因はあいつがいつもと同じように俺の頭を撫でてきたからなのかもしれないし、いつもみたいに優しい顔で笑ってたからなのかもしれない。それともこうやって2人で並んで片付けをしてて、煙草を吸いながら皿を洗ってる久保ちゃんの横顔が見えるからなのかもしれない。特別なにかがあった訳じゃない、それなら一つ一つが原因なのかもなんて考える。日常になりつつある生活があってその中に久保ちゃんがいて俺がいて。それがなんだか無性に幸せだなーって思ったから、だからキスしたくなったのかもしれない



洗い終わった皿を手渡してきた久保ちゃんと目が合う、"どうした?"って聞いてくる柔らかい雰囲気と瞳に浮かんでる俺への愛おしさみたいなものがたまらなく嬉しくて可愛くて愛おしくてー



咥えてた煙草を流し台に捨てて、少し高い位置にあった唇を塞いだ。右手を使って強引に引き寄せたせいで久保ちゃんはかなりきつい体制だったみたいだけど、文句一つ言わず応じてくれる。舌先に触れる煙草の苦い味さえなんだか甘い気がした



「…久保ちゃん?」



そのまま強く抱きついてくる久保ちゃんに首を傾げる。首筋に顔を埋めて時々擦り寄られると気分は大型犬にじゃれつかれてる飼い主で、悪くないけど若干重い



「…時任が可愛すぎるのが悪いよ? 今のは」


「は、はぁ!? なんでそうな…ッて、どこ触ってんだよ!」


「俺は真面目に片付けしてたんだけどこんな風に誘われちゃあねぇ」


「さ、誘ってねぇよ!」


「先にキスしてきたのはお前でしょ、しかも熱い視線送ってくれちゃって…気付いてないと思ってた?」



そう言われると何にも言い返せなくなる、何もかもお見通しだったんだからどうしようもない



理性がシャツの間を這う掌に煽られてゆらゆら揺らぎ始める、そんな俺を見抜いて耳元でわざとらしく囁く久保ちゃんはいつもズルいと思う。くすぐったい、無駄にエロくて低い声



「今日は時任が好きな方でいいからさ、ね…シよ?」



勢いよく顔を上げた俺に久保ちゃんが可笑しそうに笑った、現金だなぁなんて言うけど仕方ないだろ。だって久保ちゃんめったに譲ってくれないし…そういうことなら話は別だ




(Love is blind)




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Twitterでちまちま呟いてたWAの小ネタまとめ。まんまと最遊記からWAにも手出してはまってます、基本は久保時の2人(完全リバ派)が大好きだけど真久保とか久保←宮も好き。あと葛+久保の叔父と甥の関係も好き。というか久保ちゃんが好きです、久保ちゃん重くて面倒くさいけど好き




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