※双連
※ハロウィンネタ
制服が夏服から冬服へと変わり、朝と夜になると肌寒さを感じることも多くなってきた。そんな本格的な秋真っ只中、冬へほんの少しだけ足を踏み出しかける季節。今日10月31日は世間でいう所謂"ハロウィン"という1日で、一歩街に出掛ければカボチャやお化けなんかの飾りつけで彩られた店をよく見かけたもんだった。こういうのを見かける度俺はいつも皆ほんとに祭り事が好きなんだなぁと思う。そして祭り事が好きなのは此処、妖館も勿論例外じゃあなく…楽しそうに思い思いの仮装をしてはかなり盛り上がっていた。まぁ元々変化すれば毎日仮装してるみたいな俺らがその上から更に仮装するってのはちょっと不思議だなと思ったりもしたけど、盛り上がってる皆を見るのは別に嫌いじゃない(むしろ好きだ)し楽しいのはいいことだから問題ないか
「お兄さま、ラウンジにいらしたんですね」
愛らしい魔女っ娘の格好をしたカルタが俺から貰ったお菓子を持ってラウンジから出て行くのと同時に、そろそろ聞き慣れてきた呼び名が耳に届いた。聞こえてきた方向に目を向けるとそこにいたのはいつもと変わらない笑みを浮かべるミケの姿。ただ違うのは今のミケはいつも着ているスーツ姿ではなく、カルタと同様ハロウィンをめいいっぱい楽しんでいる格好だ。首元で揺れる白いスカーフにすらりとした長身を包みこむように羽織る黒いマント、狐お得意の変化でもしているのか僅かに尖っている耳の先と時々覗く犬歯。典型的なドラキュラの仮装だがこっちが悔しくなるくらい整った顔立ちをしているミケにかかればとても華やかなもので、まるで本物のドラキュラかと一瞬疑ってしまう程に似合っていた。その辺にいる女なら何人でも引っかけることが出来るだろう、"悪戯されたい"なんて思いながら自ら寄ってくるに違いない。イケメンは得だとミケを見てると常々感じる
「よぉ、ミケ。おーこれまた随分本格的なドラキュラだなー、イケメンドラキュラじゃん」
「せっかくのハロウィンですからね、少し楽しもうかと…それに凛々蝶様が仮装なされているのにSSである僕が何もしないというのは失礼かと思いまして」
「ははは、相変わらず凛々蝶しか見えてねーのな。それで凛々蝶には会ってきたんだろ、どうだった?」
「えぇ、それはそれは可愛らしかったですよ? あまりにも可愛らしかったので思わずおしおき……いえ、悪戯をしたくなりました」
「…うん、なんか聞いちゃいけない単語が一瞬聞こえた気がするけど聞かなかったことにするな」
満面の笑顔でさらっと恐ろしいことを吐き出すミケはもし凛々蝶と恋人同士じゃなかったら確実にアウトだ、今の発言は割と変態のそれだったような…いや他人の恋愛事情に図々しく口を挟む訳じゃないけどさ。小さな黒い羽根がついた小悪魔の格好をした凛々蝶の姿が頭に浮び上がる、そしてそのまま心の中で合掌。この後あいつに起こるだろう災難を考えると少し哀れになる。恋人の愛情があまりに重すぎるのもなかなか考えものだ。…なんて俺が多少なり凛々蝶の身を案じている間にも、ミケは話を次の話題へと切り替えていた
「そういえばお兄さまは仮装をなさっていないのですね。なにかなされないのですか?」
いつもと同じジャージ姿の筈なのに何故か足先から頭のてっぺんまで全部流し見られてるような気がした。まさか自分が話題のタネになるとはつゆにも思っていなかったから、そう尋ねられたのには多少なり驚く。思わず首を傾げながら返事を返した
「んー、俺?俺は特になんもする気ないかなぁ。見る分には楽しいけど自分がするとなると色々面倒くさい気がするしさ。それに自分が何似合うかとか分かんねーし」
…仮装、仮装ねぇ…いくら周りがやっていても自分がするなんて考えはこれっぽっちも浮かばなかったな。確かに1人だけ何にもしないでいつも通りに振る舞ってるっていうのは空気が読めていなかったかもしれない。そんなこと考えたって今更だけど
仮装した皆と自分の姿を頭の中で反覆させる俺を黙って見つめるミケの視線。ラウンジは暫く沈黙で包まれる、しかしその沈黙が破られた時それまでミケが纏っていた雰囲気は違うものに変わっていた
「そうですか、ならお兄さまは皆にお菓子を配る係なのですね」
「…ん?」
一見するとさっきと変わらない人の良さそうな爽やかな笑顔は誰が見ても好青年と取れるだろうそれだ、けれど決してそれだけではなさそうな気がした。その言葉と笑顔は何かを企んでいるような……そういえば凛々蝶がちょっと前に言ってたっけ、"彼をただの好青年だと思っていると痛い目をみる。本性はとても頭の良いピュアブラックなんだ"と。そしてそれは今見事に的中した
カツン、と一歩踏み出したミケの足音がやけに大きくラウンジに響き渡る。無性に嫌な予感がして俺が後ろに退いてもミケはそんなことを全く気にしていなかった、確実に足を進めて互いの距離を縮めていく。左右で色が違うオッドアイに俺の姿が映る
「…ミケ?」
「確かに皆が皆仮装をしていては肝心のお菓子を配る人がいなくなりますよね、自らその役目を買って出てくださるなんて流石はお兄さま。ありがとうございます」
でも、と続け整った唇が歪む。それを見た瞬間、一瞬で背筋が冷たくなった
「…お兄さまから頂けるお菓子はさぞかし甘いのでしょうね」
別に何をされたわけでもないのにヤバいと思った、このままだと何かよくないことが起きる。早くラウンジを出た方がいい。そう思った。だがミケに俺の考えは全部筒抜けだったらしく、適当に誤魔化してラウンジを出ようとした俺の腕をミケが掴む。いきなり引き寄せられ「うおっ」とよろめいた拍子にミケとの距離は更に近付く
「骸々宮さんもとても楽しそうにしていらっしゃいました。お兄さまからお菓子を頂けたことが嬉しかったのだろうと思います。…その様子を見て恥ずかしながら羨ましい、と少し思ってしまったのです」
「あ、あー…そうなんだ。でも悪ぃ、さっきカルタにあげたやつが最後だったからもうお菓子ないんだよ」
念の為ポッケの中を探ってみるがやはりカルタにあげたロリポップのキャンデーが最後だったらしく、ミケにあげられるお菓子は残念ながらもうない。申し訳ないけどこれで諦めてくれるかなと淡い期待を抱く、がそれで大人しく引き下がってくれる程ミケは甘くはなかった
「それは残念です。けれど―」
突然優しく手を取られ、指に当たった柔らかい感触に思わず息が詰まる。お伽話の中の王子がお姫様にしてるみたいな誓いのそれ。それを男が男に、ミケが俺相手にしたことに驚きと戸惑いが隠せなかった
「たとえお菓子がなくても面倒見のいいあなたは代わりの何かをくれるのでしょう、ハロウィンにふさわしい甘い何かを…ふふ…一体僕はお菓子の代わりに何を頂けるのでしょうか。ねぇ、お兄さま?」
考える隙も与えられず、次々に聞こえてくる声は、穏やかな口調なのに、徐々に追い詰められていくようで。後にも先にも行けないで当然逃げ道もなくて……混乱と諦め半分、再び動き始めたミケの手を俺が見つめた瞬間、
「そーたんいるー?」
ないと思っていた逃げ道があちらからやって来てくれた。ラウンジに飄々と入ってきた残夏に俺は安堵の息を吐く、カボチャがついた髪ゴムで髪を結っている以外は残夏もいつもと何ら変わらなかった。黒い兎耳も、読めない笑みも、語尾にハートがつきそうな声音でミケを呼ぶその声も。残夏は俺とミケの間に流れている微妙な空気にもあまり気にしてはいないようで、ちらっと俺の方に目を向けるとまたミケへ意識を戻す
「はい、どうかなされましたか? 夏目さん」
「あぁんそーたん格好いい!すっごいよく似合ってる、抱いてー」
「恐縮です。ところで僕に何か用があるのでは?」
「うん、ちよたんが向こうで探してたから呼びに来たんだ。何か手伝って欲しいことがあるんだって、早く行ってあげた方がいいんじゃない?」
「ええ、わざわざお気遣いありがとうございました。すぐに凛々蝶様の元に向かいます」
二言、三言会話を交わし笑って残夏に礼を言うとミケは何事もなかったみたいに俺から離れていった。ミケの中で凛々蝶は妖館の誰より優先順位が高い、その凛々蝶がミケを求めて探しているのだから当たり前の反応だ。…そう…きっとさっきのは質の悪い何かの冗談だったのだろう、もしくはただの悪い夢。そうだ、そうとしか思えない。だってミケはこんなに凛々蝶に対して一筋で凛々蝶しか見てないんだから。俺に本気でそんなこと言うわけないって…
「お兄さま」
不意に名前を呼ばれてびくっと肩が跳ねる。なんだ?、と返した声はいつも通りだったと思いたい。尖った歯を見せて小さく囁いてくるミケ、その姿はもうドラキュラを通り越して悪魔そのものだった
「このまま逃げられると思わないでくださいね」
「……なんなんだよ」
ミケの背中を見送りながらぼやいた俺の独り言は心からの本音で、ミケが残していった言葉の意味は分からなすぎて一気に脱力した。ハロウィンってこんなに疲れるお祭りだっけ、とハロウィンのイメージ自体が変わってしまいそうだ。目の前でそんな俺を見ていた残夏がクスクスと楽しそうに笑う
「レンレンも大変だねぇ、ああいう時のそーたんってほんとイキイキしてるよ」
「…残夏、全部視てただろ」
「さぁどうでしょー、でも改めて分かったんじゃない? そーたんを甘く見てると痛い目見るって」
蜻たんの判定も案外馬鹿には出来ないかも、高笑いをしながら人を指差す蜻蛉の姿を思い出す。確かにこれからはあんま馬鹿に出来ねーな、なんて少しだけ蜻蛉のことを見直すはめになったのは予想外だ。とりあえずこのあと嫌でもミケと会わなければならないってことが今の俺にとって一番の憂鬱だった
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今更すぎるハロウィンネタ。ミケは凛々蝶様一筋だけど反ノ塚のことも気になって遊んでる感じ、ただ本命は地がひっくり返っても凛々蝶様なので反ノ塚はただの遊びという最低野郎^^^^ ミケちよ前提でただれた双連が好き、今回残夏お兄さんはただの傍観者(笑)
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