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「なぁなぁ!きょーへー、きょーへー!!」




俺を呼び続けながらぱたぱたと駆け寄ってくる千景に「危ないから家の中を走るな」と注意するのに慣れてきたのは、俺の中でも記憶に新しい。…確かに週1のペースで通われていれば当たり前な事なのだろう、むしろ慣れない方が可笑しいと言えるか。そして「あ…ごめんなさい」そうやって謝っていてもお前がまた同じ事を繰り返す事も分かってるんだぞ?…言わねぇけどな



「…今度から気をつけろよ。で、何かあったのか?」



そう呟いて開いていたページにしおりを挟み本を閉じた。まぁ毎回きちんと謝る辺りは偉いと思うから当然許さない訳がないんだが、もう少し落ち着いてくれると有り難いってそれだけの話だそれだけの。 一瞬曇った表情を直ぐに消し千景は跳ねるように話始める



「へへー、見て見て。これなんでしょーか?」



じゃーんとか何とか自分で口にし千景は俺の目の前に持っているそれを突きつけた、何かなんてすぐに分かる。2つの紙コップに赤い細糸が通され交互を繋いでいるそれはどこをどう見ても…




「…糸電話、か」



「おお、せいかいでーす。昨日母さんにつくり方教えてもらったんだけどこれすごいよなぁ…て訳で、はい、きょーへー」




ああさっきからこそこそ何かやっていたのはこれが原因か、





耳に当ててて、納得した俺にそう言って片方の紙コップを手渡し部屋を出て行く千景。千景の姿は見えずとも繋がった赤い糸は途切れずに点々と廊下へと延び、張り詰めた辺りで言われた通り耳にそれを当てる。いい大人が何をやってるんだと思ったが家にいるのはあいつと俺だけなんだから……それに何だかやけに懐かしい





『きょーへー
きょーへー!!
きこえますかー?』





紙コップが振動して微妙に曇った千景の声が耳へと届く…んだが…声デカすぎだ、耳にコップ当てなくても充分聞こえるぞ千景? 『聞こえてる』一言呟けば同じように振動して糸電話は糸を揺らした。思えば不思議なものだ、紙コップに糸を通しただけのものが些細な距離とはいえ音を繋いで相手へと伝えるのだから





『やっぱすごい
きょーへーだ!
ちゃんときょーへーの声聞こえてる!!』





『…そりゃあ糸電話だからな。逆に俺以外の声が聞こえたら怖いだろ?』





『…っ…こ、怖い事言うなよ!』





悪い悪い、思わず笑ってしまった俺に『きょーへーのばか…』と小さく音が伝わる。あああいつ拗ねてるんだろうな、年相応に頬を膨らまして…そんな千景は簡単に想像出来る―





だが笑い終わった俺が『でもね、』そう続けられた音に意識を傾けた瞬間…





『俺、きょーへーの事大好き! ずっとずっーと大好きだから、だから怖い事言われてもへいきだもんね』





………届けられた言葉は不意打ちすぎて想像出来なかった。何ていうかいきなりすぎないか。 いつの間にかひょっこり扉から顔を出して「ほんとだからな」と糸電話を片手に持つ表情は真剣そうだったからとりあえず頭だけ撫でておいたが、千景があまりにも可愛いなんて感じてしまったが……俺は絶対にショタコンではないと信じたい









(きょーへーは? きょーへーは俺の事好き?)



(あー…まぁ、な…)
((まさか"糸電話で告られる"とは…なんてマセガキだ))



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@糸電話



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