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「きょーへー!!」





仕事帰りに駅前をぶらぶら歩いているとつい一週間前に聞いたそんな間延びした自分の名前が聞こえてきた、信じられなかったが驚き振り返った瞬間に「みーつけた」と俺の腰に抱きついて無邪気に笑う子供は間違いなく千景本人だ…だが…とりあえずちょっと色々とツッコミたい



「千景、何でお前がここにいるんだ…お前の家は埼玉だろ…まさかまた一人で来たんじゃねぇだろうな?」



「大丈夫、今日はちゃんと母さんときたから! だから心配ないって」



また怒られるのやだもん、そう付け加えてから一向に離れる気配がない千景に俺は呆れ溜め息。子供相手だろうが呆れるもんは呆れる

あの後埼玉にある家まで俺に送られた千景は案の定母親にこっぴどく怒られていた訳で(当然千景は涙目になっていた)。だがそれ以上に俺に礼を言ってきた千景の母親は酷く嬉しそうにしていた事から千景の試みは充分成功といえて、その様子には俺も幾らか幸せな気持ちになれたものだ。ただ問題が起こったといえば…



「そうか…で、その母さんはどこにいるんだ? お前の近くにはいねぇけど…」



「んー…『ちゃんとこの前のお礼言って、門田さんに迷惑かけないようにね』っていって買い物いった、だからかえるときは電話しなきゃなんないんだ」



ほらこれ、可愛らしいピンク色の携帯を首に下げる千景は誇らしげに俺に見せる。一つはあの一件のおかげで千景の母親から驚くくらい信頼されてしまった事だ、実際俺は千景の母親とは少し会話を交わしたくらいなのだが…自分の息子を簡単に任せてしまえる程信頼される事は何もしていない訳で、単に千景の母親が変わっているのかそれとも俺が気にしすぎなのか…失礼な話だが前者だろう多分。で、もう一つは



「でも俺まだまだ母さんに電話はしないよ? だってきょーへーと一緒にいるんだもん!」



……これだ
どうやら俺は自分自身で考えていた以上にこいつに懐かれてしまっていたらしかった。『人は困っている時に優しくされると弱い』というのは幼い子供でも例外ではないという事か、いやそれにしても懐きすぎじゃないか? 千景にしろ千景の母親にしろ俺はその辺りが不思議で仕方ない





まぁ当然そんな事は言える訳もなく更にぎゅっと腰に抱きつく力を強める千景を引き剥がす。抱きついてくるのに嫌悪感は無いとはいえ流石に人の目は気になるからで「別によ、」と目の前で分かりやすい程にむくれる(どうやら引き剥がされたのが不満だったらしい)千景に続ける



「俺はお前が俺の所にくるのは構わねぇ…けどな、もう少し考えて母さんにも言えよ? もし俺が来なかったらどうするつもりだったんだ」



偶然通りかかったから良かったものの会わなかったという可能性だって当然0ではなかったのだ、最悪誘拐なんて事もあったかもしれないと考えるだけでゾッとする。そう言い聞かせると意外にも難しい話だったのか(まだ6歳の頭では理解するのが難しい、か?) 数秒黙り込んでから再び俺を見上げ




「んー…よく分かんないけど、今俺はちゃんときょーへーといるんだからいいじゃん!!」




と、はっきり言い切ったのが妙に説得力がある……確かにこれ以上言った所で伝わらないし実際その通り千景は無事俺といるんだから意味もないか。 何だか上手く丸め込まれたような気がしてならないんだが―










(それでお前は今からどうしたいんだ、付き合ってやるから言ってみろ)



(なら俺さ、きょーへーん家行ってみたい! きょーへーん家であそびたい!!)




(………行ってもつまんないぞ)




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