番外編 | ナノ
恋人に送るのは


「…、」

とある休日、ソファに腰掛けて、先日ネットで見つけて奮発して買ったコーヒーを啜りながらTVを眺める。
これはいつもの休日と過ごし方なんだけど。

チラリと横に座る那乃を伺うと、俺と視線が合った那乃は慌てて抱えていた膝に顔を乗せて見てません見てません見てるのはTVですアピールをしだす。

そんな那乃を見て、溜め息を吐きそうになるのを我慢しながら自分もTVへと視線を戻すと、少ししてまた横からの視線を感じる。

さっきからずっとこの調子だ。
なんなんだと今度は溜め息を吐いてしまった。

「さっきから何」
「へっ!?いや、べ、別に!?のーぷろぐらむ!だし!」

ある程度は予想のついたことだけど、一応、とコーヒーカップをテーブルに戻しながらそう聞くと、那乃は目に見えて慌てだした。
その姿に、「のーぷろぐらむ」ってなんだよ、と吹き出しそうになる。あわあわと焦っている姿は小動物のようで可愛くて少しだけ苛めたくなる。

だけど流石に、ずっとそわそわしてるのも見てて可哀想になってくる。

仕方ないからさっきまでコーヒーカップを持っていた手で那乃の白い頬っぺたを軽く摘んだ。むに、と交換音がしそうな柔らかい頬が思いの外触り心地が良くてふにふにと摘み続けていると眉を寄せた那乃が反抗するように俺の膝を叩いてくる。

「やめふぇよ!」
「じゃあ何をそんなにソワソワしてんのか俺に言ってみなさい」
「……」

途端に黙る那乃に俺の方が痺れを切らして、頬を摘む指に力を加えてみる。

「…っ!わかっふぁ!わかっふぁかわぁ!」
「よろしい」

涙目になった那乃が降参したところで指を離すと、少し赤くなった頬を抑えながら、こちらを睨んでくる。

「…で?」

俺が小さく笑うと、那乃は目を逸らしながらぽつりと呟いた。

「碓氷、あのチョコ、誰にあげるの…?」
「…は?」

那乃の言葉に思わず声を漏らす。それも仕方ない。予想していたものと違ったからだ。

俺は今日の朝早くに生チョコを作っていた。もちろん、那乃のためにだ。
何せ今日は2月14日。バレンタイン。今までは全く興味がなかったけど普段あまり那乃に好きだと言えない俺は、今年のバレンタインはいい機会だと思った。
だけど流石に作ってるところを見せたくはないから朝早くに作ってたんだけど最終段階で那乃にバレた。

まだ寝ぼけている那乃がチョコを見てから口を開けて俺を見上げてくる。いつもの料理だったらその小さい口に放り込んでいたがこれはいつもの料理ではなく特別なものだから完成してから食べてもらいたくて、那乃の顎をくいっと上げて口を閉じさせて、チョコを冷蔵庫の中にしまった。

その時にショックな顔をしていたのはすぐに食べられなかったからだと思っていた。
だから那乃がソワソワしてるのだって「いつになったらチョコをくれるの」っていう内容だと思っていた。

まさか自分が貰えるという選択肢をあの一瞬で消してしまっていたとは思わなかった。



「俺が那乃にあげないものを他の奴にあげるわけないだろ」

そう言うと目を見開いて俺を見つめる那乃をソファに残して冷蔵庫の中からチョコを取り出す。良い具合に固まっているのを確認するとトレーに乗ったままの複数のチョコを持ってソファに戻った。

俺の行動を黙って見ていた那乃は多分状況理解が追いついていない。キョロキョロアワアワしている那乃の後頭部に片手を添えて顔を固定するとチョコを一粒摘んで驚きに開閉している口の中に詰め込んだ。

「んぐっ」
「確かに何も言わなかったのは悪いけど、俺の気持ちを疑うなよ」
「ん、ん、ごめ、うすい…んんっ!?」
「俺が好きなのはお前だよ、那乃」
「ん、んむ、あ、まって」

言ってて恥ずかしくなってしたので話しながらどんどん那乃の口の中にチョコを詰め込んでいく。今は俺の言葉に何も返さないでほしい。柄にもないことを言っている自覚はあるから。

「んぐぐ」

息苦しいのか引け腰になるけど俺が後頭部を抑えているせいで上手く身動きの取れていない那乃の唇が唾液とチョコが混じり合ったもので濡れているの見て一度動きを止めた。

自分でやったことだけど僅かに潤んだ目と息苦しさに紅潮した頬、濡れた唇がいやらしい。

俺の動きが止まったのに気付いた那乃が今しかないと口の中に溜まったチョコを咀嚼して飲み下す。

一息つくと、いつの間にか握っていた俺の胸元のシャツから手を話しながら俺を見上げてきた。

「あ、あの、碓氷、ありがと。チョコ嬉しい。おれ、も、お返ししなきゃ」

ふぅふぅと息をしながら笑いかけてきた那乃に俺はニヤリと笑って那乃を腕の中に閉じ込めた。

「え、なにっ?」
「お返しは…」

そのまま那乃の後頭部に再度手を添えて、もう一粒チョコを摘むと、目を白黒させる那乃口元にそれを持っていき、その口の中に放り込んだ。

「んむっ!?」

え、と目を見開いた那乃に顔を近づけて、そのまま唇を塞いだ。

「んん…ぅ、あ…むぅ」
「ん…」

ぬるりと舌を入れるとドロリと溶けたチョコが舌に絡む。それを那乃の舌に擦りつけるように舌を動かせばぴくりと腕の中の身体が動いた。
それに興奮を覚えてさらに舌を出し入れすれば、那乃の口の端が唾液とチョコで濡れていく。

「んぁ…ふ、はぁ…ん、んぅ」

じゅるりと唾液を吸うと震える身体を撫でてから、ゆっくりと口を離した。

「お返しはこれでいい」
「…なっ!」

顔を真っ赤にした那乃のチョコと唾液に濡れた口元をぺろりと舐めてやれば、その頬はなおも赤く染まった。

俺はそれに満足して那乃の黒髪を弄りながら聞いてみる。

「美味しかった?」
「あ…あ、うん、お、美味しかった…です」

顔を赤くして素直に頷く恋人を見て、残りのチョコも美味しく食べさせて貰おうと舌舐めずりをした。

恋人に送るのは
甘い口付け


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