番外編 | ナノ
会計さんとポッキーゲーム



▽会計さんとポッキーゲーム

「ねぇ、早く咥えて」
「いやです!」
「殺すよ?」
「早くくれ!!」

やけくそでポッキー!と叫ぶと、頬を膨らまして俺の目の前でポッキーを振り回してた会計さんは、瞳を甘く細めて柔らかい金髪をふわりと揺らした。

なぜこんな状況になっているのか。それは今日という日が某お菓子会社による策謀が渦巻く日であり、そんな日に現在目の前にいる彼に出会ってしまったせいである。某お菓子会社の遣いか?遣糖使とでも呼んでやろうか??

昼休み、自動販売機でトマトジュースを買おうとしていた俺は、偶然会った会計さんに生徒会室に連れ込まれたのだ。
突然過ぎて説明もままならない。


「そんなに欲しいならしょーがないねー?」
「はっ!…んぐっ」

俺の髪を撫で付けた会計さんは、手に持っていたポッキーを俺の口に差し込んだ。喉に刺さるかと思った。

いきなりの事で驚き、噛み砕く事も出来ずにいると、今までソファの背凭れに片手を乗せて座っている俺を囲むように立っていた会計さんは、楽しそうに口の端を上げると少し体を屈めてポッキーを咥えている俺に顔を近づけた。

「よーい」

すたーと。そう言いたかったのだろうけど、既に俺とは逆側のポッキーの端を咥えているので発音的に言うと「ふたーふぉ」である。

ぽき、ぽき、

徐々に近づいている顔は生徒会だと騒がれているだけあって嫌味なほどに整っており、間近で見る楽しそうに乗せられた笑みは極上のものだとわかる。

ぽき、ぽき、

俺と彼の顔の距離はあと5センチといったところだろうか。頭を動かそうとしても、いつのまにか後頭部に添えられた会計さんの手によって、それは叶わない。
ならば、方法は残り一つ。

ボキッ!

一際大きな音が鳴った時、すぐ前にある茶色い瞳が丸くなった。
それは、俺が首を縦に振ったからである。

ポッキーは俺が歯をたてた所で折れていた。つまり、残りの5センチ程は会計さんが咥えている。
唖然とした表情の会計さんを、未だ後頭部を押さえられている俺はもぐもぐと口の中のポッキーを咀嚼しながら至近距離で眺めていた。

目の前の会計さんも少し経ってからぽきぽきと噛み砕いて口の中のにポッキーを入れていく。距離が近いから飲み込む音も聞こえた。

随分と長いこと見つめ合っていると、不意に会計さんが笑い出した。何がなんだか分からないけど、取り敢えず俺もへらりと笑ってみる。
すると、少し目を細めた彼は

「俺の勝ちだね」

そういうと、いきなり後頭部に添えていた手に力を込めた。

「え?…んっ」

駆け引きも無く簡単にゼロになった距離に今度は俺が目を見開く。さっきと同じように顔を離そうとしたが、結果は同じだ。

「んぅ…は…ぁ…」

ぬるりと咥内に滑り込んできた舌が好き勝手に暴れまわるから、息ができない。苦しさにやめてと声を上げようとしても口からはおかしな声が出る。

ガチャ…

「な、に…してるんだ松園っ!」

ジワリと目尻に生理的な涙が浮かんだところで、生徒会室のドアが開いてある人物が入ってきた。離れた唇の間で、あーあ、という呟きが目の前から溢れた。

「いい加減にしろよ松園」
「イイ具合だったと思うけどー」

生徒会室に入ってきた人物…ゆーちゃんは俺たちのいるソファに慌てて近付くと、俺から会計さんを引っ剥がした。

大丈夫か?そう心配そうに俺を見つめるゆーちゃんの顔を、キスのせいでぼやけた視界で眺めていれば、ゆーちゃんの横で笑う彼も必然的に見える。

「甘かったね」

心底楽しそうな声に唇の熱さを思い出してしまう。

そっと唇をなぞってみると、ゆーちゃんが無言で会計さんの頭を殴った。

(完)

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