暇なら廻れ | ナノ
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俺を見つけた山田さんが驚いたように目を見張って駆け寄ってきた。

「え、栗島くん大丈夫!?この子は…蘇我くんじゃないか!」
「山田さん、会長さんが具合悪くて倒れちゃった!保健室連れてかなきゃ!」
「うん、そうだね、俺が蘇我くんを運ぶから、栗島くんはそこに散らばってる書類を持ってきてくれる?」
「う、うん!」

俺の上から会長さんの体を起こさせた山田さんは、そのまま彼を背追う。俺は慌てて自分の周りに散らばってしまった書類をかき集めて、その後を追った。


***


「睡眠不足と疲労だねぇ」

保健室の先生、渋谷先生が丸い眼鏡の奥の穏やかな瞳を細めて会長さんを見遣る。
俺も山田さんもその視線につられるように会長さんを見た。

「きっといろいろ忙しいんだろうね」

俺はそんな渋谷先生の呟きに首を傾げる。

「忙しいってそんなに?生徒会の仕事は、そこまで負担にはならないって」

俺がそう言うと、隣に立ってた山田さんが「まぁそうだけど…」と苦笑いをする。

「これから文化祭準備で大変だし、家でもきっと色々あると思うよ」
「…家?」
「何せ蘇我財閥の御子息だからね。きっと今から家の仕事を手伝っているんだろうね」

山田さんの言葉に目を丸くする。
会長さんは、見た目や仕草がいくら大人びているからと言って、まだ高校生だ。18歳にもなっていない、子供なのに。今から財閥だなんて難しいことに関わっているなんて。俺には到底無理な話だ。

「会長さん、大変なんだ…」

なんだか未知の話を聞いた気分で会長さんを眺めていると、そっと肩に山田さんが触れてきた。

「栗島くん、とりあえず寮に戻らない?蘇我くんは今休んでるし、あまり寮を空けたくないんだ」
「山田さん、先帰ってていいよ」
「栗島くん?」
「おれ、会長さんが目覚めるまで待ってる」

なんとなくだけど、このまま眠っている会長さんを置いていくことをしたくなかった。
そう言えば、山田さんは渋るように黙ったあと、しばらくして頷いた。

「わかった…俺は先に戻るけど、夕方になったら帰ってておいでよ?…夕飯作って待ってるから」
「うん、山田さんありがとう!」

笑顔で見上げれば、山田さんは穏やかな笑みを浮かべて俺の頭を二、三度撫でると、「…じゃあ俺はこれで失礼するね」と俺と渋谷先生に挨拶をして保健室を出て行った。

俺は山田さんを見送ると、パイプ椅子を会長さんの眠るベッドの側まで持っていって、それに座った。

「栗島くん、蘇我くんの側で待つなら、起こさないようにね」
「はい」

優しく会長さんを指差す渋谷先生に頷いて、会長さんの方に向き直った。
じっとその顔を眺めて、ふと思う。

こうして寝てたらただの超絶イケメンだなぁ。
ただの超絶イケメンってなんか変だけど、会長さんの寝顔はいつもの威圧感とか大人びた仕草とかが抜けて、年相応な感じがする。

まだしばらくは起きそうにないな。

そう思ってベッドに両腕と頭を乗せてみると、すぐ目の前には形の良い指先が見えた。良く見てみると、そこには紙で切ったような傷がある。まだそんなに古くないようだ。

会長さんでも怪我するんだな、なんておかしなことを考えながら、以前相坂先生にもらった黄色いクマがプリントされた絆創膏をポケットから取り出して、その長い指に巻きつけた。

会長さんに不釣り合いな絆創膏を満足気に眺めていると、、いつの間にか俺は夢の世界に入っていた。


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