暇なら廻れ | ナノ
12


「那乃、ちょっと待って」

あの後おニューの海パンに履き替えてニュー栗島になった俺は、「那乃と遊ぶ!」と俺の手を握った圭介くんに笑いかけて「一緒に遊ぼう」とその小さな手を握り返した。嬉しそうに頷いた圭介くんはやっぱり天使。
結局俺とゆーちゃんに加えて碓氷と風紀委員長と圭介くんも一緒に遊ぶことになった。

「んー?」

さぁ海に飛び込むぞと砂浜を踏みしめていると、ゆーちゃんに呼び止められる。

「まだ日焼け止め塗ってないでしょ」
「あ、忘れてた」

駅から海までの道のりで、ゆーちゃんが「日焼け止めちゃんと塗るんだよ」って言ってたのに、すっかり忘れてた。

俺はしゃがみ込んで圭介くんにと目線を合わせて、その小さい手を軽く、きゅ、と握った。

「圭介くん、俺日焼け止め塗るから、先にうす…アキラと海に入ってて?」
「やだ」

できるだけ優しい響きで言ったつもりだったけど、圭介くんがいやいやと首を振る。困ったなぁと碓氷の方を見れば、切れ長の目を見張っている。どうしたの、と聞けば「那乃、おま、今…」と僅かに頬を赤くしていて結局何があったのか分からなかった。

さてどうしようかと悩んでいたら、すぐ後ろに砂を踏む音が近付いてきていた。振り向けば、日焼け止めのボトルを片手に持ったゆーちゃんが苦笑いで立っていた。

「那乃、そのままでいいよ」
「え、何…、ひょあっ!」

何が、と返そうとしたところで冷たいものを背中に感じて思わず奇声をあげる。ゆーちゃんが日焼け止めを塗ったのだ。

「あ、ごめん、出してすぐ塗ってしまった」
「あ、うん、大丈夫だよ。ありがと…ふ、ふふっ、ゆーちゃん、くすぐったい」

冷たいのは最初だけでどんどん肌に馴染んでくる。「そろそろ慣れて」と言いながらゆーちゃんは俺の体に日焼け止めを塗っていく。ありがたいけど自分のものじゃない手が脇腹などに触れるのは慣れないしくすぐったい。圭介くんの手を握りながらくすくす漏れる笑いを堪えていると不意に風紀委員長と目が合った。
何か考えるように手を顎に当てていた彼は俺と目が合うとニヤリと笑みを浮かべた。なんだこの嫌な表情は、と目を逸らそうとしたところで彼は口を開いた。

「男か女かわかんねーような体型だな、栗島」
「ゆーちゃん、風紀委員長が失礼」
「坂上なんてほっとけ」
「風紀委員長って坂上っていうの?」
「お前も大概失礼だろ」

聞き捨てならない言葉を風紀委員長から聞こえたので即ゆーちゃんに告げ口。ゆーちゃんもすぐ側で聞いていたから告げ口と言えるのか分からないが、なかなかズッパリ切ってくれたからスッキリ。俺は一応お前の名前知ってるんたぞと言いたげな風紀委員長には申し訳ないが俺は風紀委員長は風紀委員長としか呼んだことがないので名前を知らないのは仕方のないこと。

やはりゆーちゃんは俺の味方だと得意げになっていれば、「やっぱりよォ」とさらに風紀委員長が何か言おうと口を開く。彼が喋ると怖いか失礼かの二択なのでこれから言おうとする事にあまり期待はできないが、とにかく何か言うつもりだろうから黙って風紀委員長を見つめた。
そして彼は俺と、そしてゆーちゃんを指差してこう言った。

「お前らって、デキてんの?」
「なっ…!」

後ろでボト、と何かが落ちる音が聞こえる。ちなみに声を出したのはなぜか碓氷。俺は風紀委員長の言わんとする事が理解できなくて目の前の圭介くんと首をかしげた。

すると後ろから、ゆーちゃんが俺の背中から手を離すと、じ、と風紀委員長を睨むように見た。俺には一度もむけた事のない、冷たい視線。

「余計な事を、言うな」

普段よりも低いその響きに思わず肩が跳ねる。すぐに後ろから息を飲む音が聞こえて、「那乃、ごめん、気にするな」と日焼け止めの付いていない方の手で頭を撫でられる。それに知らないうちに入っていた体の力を抜く。

風紀委員長は少し目を丸くしたあとに肩を竦めた。その仕草とは反対に、彼の口許は楽しいものを目の前にした時のように釣りあがっている。
「なるほどねぇ…」と最後に碓氷に視線を向けた風紀委員長が何を考えているのかは分からない。


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