暇なら廻れ | ナノ
9


少し歩くと見えてきた海は太陽の光を反射してキラキラと光ってて早くその海水に触れたくなる。
海には夏休みだからか、いっぱい人がいた。浮き輪で浮いてる人とか砂浜でバレーしてる人たちとか、沢山。俺も膨らませるタイプの浮き輪持ってきてるからすげー楽しみ。

にこにこしながらゆーちゃんと二人、海の近くに設置されてる休憩所に入り込む。ゆーちゃんも俺も服の下に海パンを履いてきているからいちいちトイレに行かなくても服を脱ぐだけで準備完了なのだ。

「那乃、駅のロッカーの鍵貸して」
「はーい」

失くしたら困るから、とゆーちゃんに言われる。何年か前にゆーちゃんと俺の両家族で旅行に行った時にロッカーの鍵を失くしたという前科がある。ゆーちゃんの顔がちょっと笑ってるのはそれを思い出しているのだろう。あのあとは色々と大変だった。

「ほら、ボーっとしてないで」
「え、ゆーちゃんはやい」

しみじみと頷いていると、ゆーちゃんが既に海パン姿になっていた。俺と違って適度に筋肉のついてる綺麗な体だ。俺もゆーちゃんみたいになりたい!

また思考が飛びかけたところで、浮き輪を膨らませなきゃいけないことを思い出して、ゆーちゃんを待たせてはいけないと慌てて服を脱いだ。

どさっ

「うわ、びっくりした…ゆーちゃん?」

やっと海パン姿になって浮き輪を手にしたところで、物が床に落ちる音がして顔を上げると、目を見開いたゆーちゃんがいて、その横にはゆーちゃんの荷物が落ちていた。なんでそんなに驚いてるの?

「…」
「え、どうしたの?」
「…、那乃、それ…」
「ん?それ?浮き輪?」
「いや…」

ゆーちゃんの指す「それ」がわからなくて首を傾げていれば、我に返ったゆーちゃんが俺に近付いてきて、

「どうして、こんなの履いてるんだ」

と俺の海パンを指差した。
それに俺は、ああ、と納得。

「俺の持ってる海パンって小学生の頃のやつしかなくて、お父さんに貸してもらったんだ!変かな?」
「いや、変とかじゃなくて…」
「うん?」

「はぁ…おじさん…」と眉間を押さえて何やら嘆いている様子のゆーちゃんは大変儚げで格好良いけど俺の海パンのどこに、そんなにゆーちゃんを悩ませる種があったんだ?

ただのビキニタイプじゃないか。

「これ似合ってない?ちょっとピタッとしすぎ?」
「…っ」

ゆーちゃんはお気に召さなかったかと腰あたりの生地をビチビチ引っ張っていれば息を呑む音が聞こえたと同時にゆーちゃんが目を片手で覆ってしまった。なるほど見るに耐えないらしい。
まぁ確かにちょっと股間にフィットし過ぎて一歩間違えれば変態にしか見えないかもしれない。だけど困ったことに俺はこの海パンしか持ってきてないから今日はこのビキニタイプの海パンで海をエンジョイするしかないようです。

諦めた俺はまだ顔を覆っているゆーちゃんの側に腰を下ろして浮き輪を膨らませることに専念した。俺たち以外は誰もいない休憩所に、フスー、フスーと、浮き輪に空気を入れる音が響く。膨らませ終わったところで、横から伸びてきた手によって俺の腰にタオルが巻かれた。驚いてゆーちゃんを見ればあまり見ることのない焦った表情がそこにあって俺は目を丸くした。

「え、あ、これなに?」
「ちょっとここ出るから、それ絶対外さないでよ」
「え、じゃあ俺も行く!」
「いや、絶対駄目。すぐに戻ってくるから、ここで大人しく待ってて」
「くぅーん」

いきなり俺を置いて何処かへ行こうとするゆーちゃんにショックを受けると一瞬ゆーちゃんが眉を下げたけれど、すぐに真顔になってもう一度「大人しく、待っててね」と俺の頭を撫でて休憩所を出て行ってしまった。

「さみしい…」

ゆーちゃんに大人しくしてろと言われた以上は大人しくしていなければいけない。
ついぽつりと呟いてしまった俺は、しょんぼりしながら膨れ上がった浮き輪をぎゅっと抱きしめて、ゆーちゃんの帰りを待つことにした。



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