暇なら廻れ | ナノ
7


「あ、あの子」

決して弱くはない日差しを生徒たちがガンガン受ける中、テントを張り比較的涼しい場所で椅子に座りながら賑やかなグラウンドを眺めていれば、面白いものが見つかって口角を上げた。

「ベビーちゃんじゃん」

俺の声に反応したカイチョーが、プログラムを捲っていた手を止めてグラウンドに目を向けたのを横目で見る。

「ベビーちゃん…?」
「ん?錦戸も気になる感じー?」
「ああ」

首を傾げた錦戸に、彼が好かないニヤァっという笑みを浮かべれば、予想通り彼は眉を顰めた。そのままどっかのエリカ様みたいに「別に」と返ってくると思ってたから、素直に頷かれて目を丸くする。

書記の錦戸 祐司は他人に興味がない。それはカイチョーである蘇我 一樹もそうなのだが、カイチョーの方がまだ他人を見ている。
副会長の西澤も凄く他人に興味があるという訳ではないけれど他の二人に比べれば他人を自分の視界に入れようという努力をしているから周りから見れば中身以上に親切に見られる。

ただの憶測だけど錦戸は周りの人を見ていない。別に人そのものが見えていないということではないけれど、多分全員同じ人間というふうに纏められてる。もしかしたら俺たち生徒会役員だってその束の一房なのではないかと思うことだってある。まぁ、そんなことどうでもいいけどねぇ?

俺に関しては好んで人間観察をする。別に誰彼構わずしてる訳じゃないけれど相手が知らない人でも面白そうだと思ったら積極的に観察する。自分ですら気が付かぬうちに滲み出ている表情とか眺めるのもちょー好き。

それが生徒会役員である彼らであっても、変わらない。


「見て、あそこでぴょんぴょん跳ねてる白い子、ベビーちゃん」
「…、」

グラウンドで跳ねてる割と小柄な子を指差せば、近くで息を詰めた音が聞こえた。ふふ、と口の中で笑い声を転がす。

あの時は『いつもの子』だと思ってた。だから会って早々押し倒した。

周りの子は俺に抱かれたいと望んでいる。それが俺が会計だからなのか顔が良いからなのかはたまた両方なのかはどうても良くて、俺は望まれたから性処理として抱いてあげる。何もわるい事はない。俺の価値は高いけど、他の役員に比べればそういう意味で近づきやすいし、セックスは上手だし、最中は優しくしてあげるし、って、俺って超ステキじゃない?

そういうわけで可愛い子は抱いてあげるけど俺の親衛隊のタイチョーがうるさくて俺の部屋ではヤることもヤれないから学校で抱く。一つ年上の幼馴染みで俺が変なことしないようにと監視役として俺の親衛隊隊長にイヤイヤなったらしいけど、なんせ小言が多い。姑みたいでうるさいから早く卒業しないかなーってずっと思ってる。

だから、ベビーちゃんが親衛隊じゃないって気づいた時に怒りに顔を赤くして殴りかかってくるタイチョーを想像して口元をヒクつかせた。

ちょっと頭のネジが足りないベビーちゃんは、どうやら俺が服を脱がせたのは相撲をするためだと思っていた。純粋なのか知らないけれど、無知もいいところだ。

本当に、どう育てればあんなお馬鹿ちゃんになるのか。



「あぁああ取れないよぉおお!?もう…えいっ!」

あ、手で取った。
思わず噴き出す。他の生徒もベビーちゃんの行動になんだなんだと騒ぎ出す。

「何してるんですか君は!!!!!」
「げ、副ちゃん!!!」

目を釣り上げて追いかけてくる風紀副委員長を「副ちゃん」と呼んだ彼は慌てて口の中にパンを突っ込んでゴールへと走り出した。その様子がリスみたいでちょっとカワイイ。


「何してるんだよ…」
「ベビーちゃんってさぁ」

呆れてるのか心配しているのか分からない声で溜め息を漏らす錦戸の肩に手を置く。目だけで「なんだ」と返事をした彼が、俺の手を払おうとした手を逆に掴んだ。眉を顰めた錦戸に目を覗き込んで、

「錦戸の、従弟なんだってぇ?」

カイチョーから聞いちゃった。と笑えば、僅かに目を見開いた錦戸がカイチョーを睨み付けた。その視線に気付いたカイチョーは「役員に教えて困ることでもないだろ」と笑って足を組み直した。

「松園に、教える必要なんてないだろ」
「えー、仲間はずれ?」

同様に揺れる瞳を覗き込めば、自分の口角が上がってあるのがわかる。楽しい。

「那乃に関わるなよ」
「へぇ、ベビーちゃん、那乃っていうんだ?」
「松園、」

「ダメだよ」

何か言おうとした錦戸の声を、澄んだ甘めの声が被さる。そっと声の方に顔を向ければ、マイクから離れてこちらに近付いていた西澤が、じっと俺を見つめていた。何この状況?と首を傾げる俺の横では錦戸が、目を細めて西澤を見る。

「松園、那乃くんは、ダメだよ」

金色にも見える淡い琥珀に確かに混じる熱。きっと、ここにいる全員がソレを感じ取っただろう。

カイチョーは片眉を上げ、錦戸は眉間の皺を深くする。

ははぁーん。なるほど。


「んー。ムリ!」

俺の言葉に怪訝そうな顔をする二人にさらに口角が上がる。

ねぇ、ベビーちゃんって、本当にすごいよねぇ?
あー、もう…

チョーたのしい!




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