暇なら廻れ | ナノ
3
きょろきょろと周りを見渡して見ても倉谷の姿は見えず、何が起こったのかと首を傾げたとき、グラウンドになにやら見覚えのあるオレンジが視界に入った。
倉谷の奴、瞬間移動もマスターしたのか…?
「…おい?」
…ハッ!もうグラウンドにいるってことは、倉谷奴、俺を置き去りにしたな!?
何故だ!いつも行動を共にしているというのに、こんな乾いた地面に俺を一人取り残してしまうなんて最低だ!
「くそー!」
バシッバシッ、と恨みを籠めて地面を叩く。ごめんよ、広大な大地よ。痛いでしょうが、全てはあの薄情なミスタークリリンが悪いのです。あ、ミスタークリリンは俺だった。
「おい…」
「あー寂しいー!」
バシッバシッ
「お前…」
「くそー俺の手も痛くなってきたー」
バシッ、ばっ
「…え?」
どんどん叩くうちになんで叩いているのかわからなくなったところで、振り上げていた腕がパシリと掴まれた。驚きに目を見開けば、乾いた空気に曝されて僅かに痛みを覚えた。
「どうし…ひっ!」
いきなりどうしたのだと掴まれた手を視線で辿りつつ顔を上げて、思わず悲鳴を漏らした。
「砂埃が俺に掛かってるんだよ」
俺を見下ろしてくる、眉毛をぴくぴくと痙攣させた会長さん。もしかしなくても怒ってらっしゃる。そこで一度掴まれていない方の手を見て、地面をバシバシと叩いていたからなのだと分かって、俺の口元も痙攣する。やってもうたわ。
「あ、あの、ごめ…ひぇっ!?」
ごめんなさい、と謝ろうとした時、脇に会長さんの手が差し込まれて、驚きと擽ったさに声を上げる。いきなりの事で反射的に逃げようと体を捩るが、差し込まれた手に力が加わり足が地面から離れ、すぐに体が固まった。
なんで持ち上げられてるの!?
「会長さん!?」
「軽…」と無礼な事を言う会長さんの頭を混乱する中でぶっ叩こうとして、、会長さんが会長さんである事を思い出した。危ない危ない。そんな事したら俺が危ない。
ふぅ、と溜息を吐いてはみたけれど、落ち着けない。いや、こんな物理的に地に足がつかない状態でなんて落ち着ける訳がないけど。会長さん身長高いし視線が高くなって怖い。
怒られてると思ったら今度は持ち上げられて、本当に意味が分からなくて摘まれたネズミよろしくオロオロしていると眉を寄せた会長さんと目があった。相変わらず射抜くような黒い瞳に見つめられると萎縮してしまう。
降ろしてくださいと言おうとしたけれど、会長さんが口を開きそうだったので慌てて口を閉じた。俺の行動をただ見ている会長さんは、それより、と話し始めるので俺もただ見つめた。
「俺を無視するんじゃねぇよ」
俺を無視するんじゃねぇよ?
…ん?
「ああああ!」
「っいきなり暴れんじゃねーよ!」
そうだ!俺会長さんに話しかけられてたんだ!
倉谷に置いていかれて一人で憤慨していたから、ちょって忘れてた。
「会長さんごめんなさい!俺会長さんに話しかけられてる事忘れてたんです」
「…は?」
ごめんなさい、とペチペチ俺の体を支える腕を叩く。誠意を込めて謝ったし、そろそろ降ろして欲しいな、と目線で訴えかける。が、ちょっと会長さんの様子がおかしい。口をぽかんとして、切れ長の瞳を僅かに見開いている。何事?
「会長さん…?」
「カイチョー!なになにどしたの!?」
会長さんの後ろから聞こえる楽しそうな声に、会長さんが俺を持ったまま振り向いた。
いいから降ろせよ!!
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