暇なら廻れ | ナノ
6


「んんんー!いっつ、でりしゃす!!」
「そう?栗島君が喜んでくれて良かった」

時刻は三時半を過ぎた頃。頬張ったマカロンの甘みに感激していると、沢山ある楽譜をファイルに入れて整理している三上先生がにこりと笑う。垂れ目気味の目をさらに垂らして笑う顔は愛らしいが、彼の身長は190センチ後半である。長い。非常に長い。三上先生はそのヒョロ長い身体を持て余すようにピアノの椅子に座っている。

「美味しいけど、先生。俺はあと何を手伝えばいいんですか?」

そして俺はというと、三上先生がどこからか引き摺ってきた学習用の椅子に座り、これまた三上先生が持ってきたお菓子を食べていた。

彼は力がない。他のクラス事情は分からないが、授業で使った少し重めの楽器などは一人で運ばず、生徒に声をかけて手伝いをお願いしている。そして俺のクラスの場合、十中八九ならぬ、十中十、俺がお願いされる。俺の座る席が先生の座るピアノの側だからだろう。だか、俺も如何せん非力である。絶対俺の隣に座る倉谷の方がストロングなのだが、お手伝いの後に付くお菓子というオプションに、この役を譲れないでいる。三上先生のくれるお菓子は、美味しい。

そして今日は大量に届いた楽譜を運び、整理するのを手伝って欲しいと授業の終わりに頼まれたので、二つ返事でOKしたのだが、楽譜を運んで音楽室に着いたら俺は何故かこの椅子に座らされて、お菓子を与えられていた。はて、楽譜の整理はやらなくて良いのだろうか。
相変わらずもそもそとお菓子を頬張りながら首を傾げると、三上先生がさらに目を細める。

「可愛いなぁ…」
「…おれ、そんなにぷーちゃんに似てます?」
「似てる似てる」
「ほぉ…てか俺手伝わなくていいんですか?」
「うん、これは僕一人で出来そうだから、栗島君はゆっくり食べていてね」
「うっす!」

三上先生に言われて、速度を意識しながら口を動かす。さっきよりも甘味を感じたのは、ゆっくり咀嚼したからなのか。三上先生、すげー。

楽譜の整理をしていた三上先生は、ある程度終わったのか身体をこちらに向けてにこにこと笑顔を向けてくる。 放課後の三上先生はよく笑うなぁ。
そんなことを考えながら俺も最後のマカロンをごくりと飲み込み、三上先生にごちそうさまでした、と頭を下げる。

「栗島君は、暇?」

この後どうしようかな、と考えようとしたところで、三上先生が抽象的な質問をしてきた。時間指定はないが、俺はオールウェイズ暇なので、頷いた。

「僕も暇なんだ。ほら、音楽教師って、授業以外あんまりすることないじゃない。だから、放課後とかはもう栗島君の写真を眺めて寂しさを紛らわせてるんだ」
「しゃしん」

俺は三上先生に写真を撮って貰った覚えは無いので、きっとぷーちゃんの写真だろう。彼は俺とぷーちゃん区別がついていないのでは、という時がある。
そこで問題なのはぷーちゃんが人間ではないということだ。俺似なのだから、さぞかし普通顔だろう。だが、動物はちょっとぶさいくな方が愛くるしい時もある。ぶさかわというやつだ。ますますぷーちゃんの正体が気になる。

「ふふ、まぁそれは良いとして、栗島君、僕とかくれんぼをしよう?」
「二人で?」
「うん、二人で」
「やりましょう!」

なんか、いい!少し前の金曜日、ロードショーで逃亡劇物を見たことを思い出す。それっぽい。

「ふふ、じゃあ僕は鬼をやるから、栗島君は、隠れてね」
「りょーかいっす!」

そうと決まれば早い。俺は勢いよく立ち上がり、出口に向かう。後ろから「いーち、にー、さーん」と間延びした声が聞こえた。俺は絶対に見つからんぞ!と心に誓い、勇ましく廊下に飛び出した。


ぱたぱたと靴底を鳴らしてどこに隠れようかと廊下を走っていると、前方に人影が。かくれんぼをしている身としては、心臓に悪い。だがしかし、制服を着ているので三上先生ではないだろう。

「ふぅ……んん!?」

だがホッとしたのも束の間。前方の彼の、堂々と歩く姿。高い身長、に、腕章。
もしかしなくても、風紀委員長である。あちらはまだ俺に気付いてはいない。彼の正体が分かった瞬間、条件反射のように俺は咄嗟にすぐ横にあったドアを開けて教室の中に入った。
閉めたドアに背中を預け、汗のかいていない額を拭う素振りをした。

「ふぅ、危なかったぜ」
「ドアはもう少し普通に閉めた方がいいんじゃなぁい?」
「っ!?」

な、何奴!?
いきなり聞こえた声に、思わず身体を強ばらせる。人がいたなんて気が付かなかった。

恐る恐る教室内を見てみると、窓際に体を預けて、緩くパーマがかった輝かしい金髪を掻き上げる、美青年が、一人。あ、この人確か、

「会計、さん」




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