暇なら廻れ | ナノ
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ゆーちゃんこと、錦戸祐司は生徒会の書記の役職についている。それを知ったのは入学式でステージの上で座るゆーちゃんを見たときだった。だけど、ゆーちゃんの綺麗な字を思い出して書記という役職に納得したのはまだ記憶に新しい。
生徒会の証である腕章を指でつつくと、コーヒーを二人分淹れ終わったゆーちゃんが曖昧に唸る。

「仕事の量は多いけど、4人で分担するし、そんなに大変ではないかな。最悪手が回らなくなっても臨時で補佐を決められるし」
「補佐なんているんだ」

おいで、とお盆を持ったゆーちゃんの後について行きながらその後ろ姿を眺める。生徒会役員としての威厳が見えるのは気のせいではないようだ。

やたらと高級そうな革張りのソファは深く沈み過ぎず座り心地が良い。

「とりあえず、壺の件は」

元が苦いものを甘いと形容するのはおかしな感じがするが、ミルクと砂糖が沢山入ったコーヒーを啜って熱い息を吐いていると、忘れかけていた壺の事を言われて、あ、と息を詰めた。いけね、割っちゃったんだった。
瞳を転がしているとくしゃり、と頭を撫でられた。

「一応、風紀には報告しなければいけないけど、元々生徒会役員の物だから、俺がフォローしとくよ」
「生徒会役員の所有物!」

だから生徒会室の目の前にあったのか!と目を剥く。頬に手を当てた顔はムンクならぬクリシマの叫びである。より焦りを見せた俺に苦笑いをするゆーちゃん。
俺、この前倉谷に言われたんだ。『生徒会の人たちはものっすごく怖くてね、栗島なんて一捻りだから、近寄ったらダメだよー』って。「栗島なんて」って言葉に膨らませたほっぺたをぺちぺち叩かれながら。ゆーちゃんは優しいけど、他の人達はわからない。西澤先輩はオーラが優しいけど、怒らせたら怖いのかもしれない。だから、生徒会専用フロアに部屋があるゆーちゃんに会いに行くのも躊躇ってた。

「ゆーちゃん!!俺は取り返しのつかない事をした!!」
「いや、だから…」
「なんだ騒がしいな」

立ち上がって震える声で恐怖に叫んでいると、生徒会室のドアが開いて人が入ってきた。

恐る恐るドアの方を向くと、そこにはキラキラしたオーラを振りまく二人組がいるではないか。

「蘇我、西澤…」
「会長さん!西澤先輩!おれ、おれ、腹、かっさばきます!」

二人の名前を呼ぶゆーちゃんの横を通り過ぎて、二人の足元に座り込み、土下座の勢いで頭を下げる。
あ、会長の靴に手を乗せてしまった。そそくさと手を引っ込めてちらりと上を向いてみると、二人ともいきなりの事で驚いていた。会長に至っては口元がヒクヒクしてる。

「おい錦戸、なんだコイツは…?」
「この子泣いてるよ」
「あー、えーと」

とりあえず全員ソファに座ってくれ、とゆーちゃんが眉間を押さえた。



「へぇ…その子、錦戸の従弟なんだ」

似てねぇな、と会長さんが呟く。それは認知してるよ!

「で、お前のとこのチビが壺を割ったと」
「ごごごめんなさい!…うぅ…ひっく…」

西澤先輩、会長さん、とゆーちゃんの説明に感想を述べたところで俺はすかさずアイムソーリー。怒っただろうか!?やはりここは腹切りか!?

「ああ…那乃も悪気があった訳じゃないんだ。許してくれないか?」

横に座る俺の頭を撫でながらゆーちゃんがフォローを入れてくれる。確かに悪気は無かった。だけど気持ちの悪いダンスして周り見てなかったのは本当だから、やはりここは腹切り…とか考えていると、西澤先輩が柔らかく微笑みながら俺を見てきた。

「俺は気にしてないから、それくらいで泣かないで?」

ね?と横に座る会長さんにも同意を求めて首を傾げている西澤先輩。なんて心が広いのだろうか。外見が綺麗なら内面までも綺麗だというのか!会長さんも何か考えるようにしてからああ、と頷いた。会長さんも優しい!

「ああ、あれは元々俺の親が新規生徒会のお祝いとして俺達に送ってきたもんだから、別に気にするような事じゃねーよ」
「親から…!」
「あぁ?うるせーぞチビ、俺がいいっつってんだからいーんだよ」

怖い!会長さん怖い!
とっさにゆーちゃんにしがみつく。西澤先輩が、一樹、と会長さんをたしなめている。だが彼はそれを気にすることもなく、それより、と楽しそうに片方の口角を上げた。 

「錦戸が人にそんな優しくするなんて珍しいな?」

確かに、と言いたげな顔をした西澤先輩もこちらを見ている。
俺の頭を撫でていたゆーちゃんが、少し息を詰めた気がした。



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