暇なら廻れ | ナノ
5


「という訳でね、すんごく美味しかったんだ」
「不法侵入じゃねーかよ。よく管理人許したな」
「山田さんだよ」


山田さんの部屋から帰ってきてアップルパイの話をすると、ファッションヤンキーな碓氷は常識人らしく、やはりそこを突いてきた。普通の人なら当たり前の事だろうが、栗原君と倉谷君は、ちょっとそこんとこ弱い。まぁ、今回ので学習したがな、俺は!倉谷は知らない。 

碓氷が寝っ転がって寛ぐソファの横に座って話していたが、そろそろお尻が痛くなってきた。ガリガリというわけではないが、基本食べても食べても肉にならない俺の尻は長時間床や硬い椅子に座っていると悲鳴を上げる。主に俺の尻骨のせいで。

「あ、おいこら、やめろすぐそこにもう一つソファあんだろ!」
「いやだ!俺はここがいい!」
「ガキか」

仰向けになっている碓氷の足をめいいっぱい曲げようとするが、動かない。それもそのはず。見た目は不良、中身はオカン、その名も、碓氷 晶!は体は筋肉がついていてしっかりしているので、俺みたいなモヤシが適うはずもない。

「誰がモヤシだ!」
「なんも言ってねーだろ…つか、退けろ!」

俺のスペースを作ってくれない碓氷に、少しムキになって碓氷の腹の上に乗る。そして感じるはずの無い硬さに驚いて尻の下の碓氷の腹を触る。うわ、なんだこの筋肉…カッチカチやぞ!

「う、わ…ムキムキ」

思わず感嘆の声を上げる。
自分にはないこの硬さがなんだか面白くてずっとさわさわ撫でていると、いきなりムクリと碓氷が起き上がって、顔を顰める。

「くすぐってぇ」

俺は手を腹から離す…こと無く更に指を大袈裟に動かして撫で回した。俗に言う、こちょこちょである。筋肉があってもくすぐったいのか、少し身を捩りながら声を上げる。

「ちょ、おい、栗島!やめ、やめろ!」
「え、わっ」

少々の優越感に浸りながらくすぐり続けていると、パシリと両腕を掴まれてしまった。とっさの事に驚いて斜め上を向くと、案外近い距離で目があった。散々攻撃をした俺は、嫌な予感がして退こうとするが、がっちり掴まれた手首はびくともしない。おい!ファッションの癖に!

文句を言おうともう一度目を合わせると、眉を顰めていた表情が、顔に似合ったニヒルな笑い方をしていた。初めて見たし、距離が近かったこともあって一瞬息を詰めていると、その隙にファッション碓氷による反撃は始まった。
いきなり身体を倒され、気がつけばさっきと逆の体制。天井があるはずの視界には、意地悪そうに笑う綺麗な碓氷の顔。あれ、ちょっと近くない?
顔を押し退けようにも、手は頭の上で一纏め。はい、私負けましたわ。あ、回文だね!

「ひっ…!?」

ちょっとトリップしてたら、あろうことかファッション碓氷は俺の服の中に手を差し込んできたのである。

「ちょ、や…ふぁ、ファッションからセクハラ碓氷にするぞ!」
「うるせーよ…お前は白くてほっせーから、モヤシで当たってるよ」

そのまま耳に口を寄せてきた碓氷は何故かいつもより低い声で囁いてきた。言ってることは腹立たしいのに何故か甘みを帯びたソレに、俺は背筋を震わせた。な、なんだこれがセクハラ碓氷の力か?これもさっきの反撃か?だったら大成功だ俺の精神はがっぽり削られた!あいあむるーざー!だからその手を退け、

「あ、あっひゃっひゃっひゃ」
「うるっさ!」

こいつやりやがったな!必殺こちょこちょ!お前にとってはダメージ2でも俺にとってはダメージ10なんだよ!こちょこちょは駄目だ!

「…って誰がモヤシじゃー!!」

俺の声が思ったより大きかったからか、少し手の拘束が緩くなる。その隙にジタバタしてソファから転げ落ちる。打った腰が痛いが、構うものかと立ち上がる。

「え、お前…」

碓氷が俺の顔を見て意外そうな顔をする。

「顔真っ赤」
「ムキーッ!碓氷のセクハラ野郎!」
「はぁ?」
「シャワー入ってきます!」

そう言って共有スペースに掛けているタオルをひっ掴んで脱衣所に逃げた。碓氷がいつの間にか用意した篭に服を入れる。そういえば、洗濯も碓氷がやってくれてたな。何だかんだ世話をしてくれる碓氷に、ちょっと言い過ぎたかな、と頬を掻く。まぁ、確かに最初にこちょこちょしたのは俺だし、セクハラ野郎は、ちょっと言い過ぎたね、うん。



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