暇なら廻れ | ナノ
25
「ゆーちゃん!」
「…」
俺の手を引いてスタスタ歩くその背中は、俺が何度呼び止めても止まることはない。
俺の歩幅に合わせてくれる、いつものゆーちゃんではない。
明らかに怒っている。一体俺の何がゆーちゃんを怒らせてしまったのか。
半ば引き摺られるようにして、人波を掻き分けて辿り着いたのは、生徒会室。
「え、なんで、」
他のものに比べて重厚な生徒会室のドアを開けたゆーちゃんによって中に押し込まれる。
「え…ゆ、ちゃ」
「那乃…」
「え、あっ」
ようやく反応してくれたと思った途端、背中に触れた温度に思わず肩が跳ねる。身体に回された長い腕に触れると、腕の力が強まった。
「ゆーちゃん…?」
後ろから抱き締められているから、ゆーちゃんが今どんな顔をしているのか分からない。
ゆーちゃんの腕の中でひとり混乱していると、耳にゆーちゃんの唇が触れて、そして絞り出すように囁かれる。
「なんで、俺じゃ駄目なんだ…」
「え…」
いきなり、何があったのか。
ゆーちゃんの声はかなり焦燥しているように聞こえる。
「俺は、こんなに…」
「まって、ゆーちゃん…」
呼びかけても、聞こえていないのか、俺を離すまいと抱き締めたゆーちゃんは、普段聞かないような声で叫ぶように言った。
「俺は、ずっと那乃のことが好きだった…!」
痛いくらいに、抱き締められる。
慌てておれもちゃんとゆーちゃんのことが好きだと伝える。
ずっと、小さい頃から一緒にいてくれたゆーちゃんのことは大好きだ。
「お、おれも、ゆーちゃんのこと好きだよ?」
だから、今こんなに焦ったように言われなくても、俺だって分かって…
「西澤よりも?」
「なん、で、西澤先輩が…」
ゆーちゃんの言葉に目を見張る。
だって、西澤先輩とゆーちゃんじゃ、好きの種類が…
「うわっ」
フッ…っと自嘲気味なため息が聞こえた瞬間、体を反転させられて、壁に押し付けられる。
「俺は、那乃…お前のことが恋愛として好きなんだよ」
「…っ!?」
ずっと一緒だった、まるで、そう、兄のような存在だったゆーちゃんが、俺のことを。
言葉に衝撃を受ける暇もなくゆーちゃんの顔が近付いてくる。
相変わらず壁に押し付けられたままだけど、壁に頭を打つこともなく、肩を痛めた訳でもなくて。
こんな時にまでゆーちゃんの優しさを感じてなぜだか泣きたくなった。
「那乃…」
「…んっ…」
思い切り振り払えばいくらでも逃げられた。
だけど、失うことを恐れたおれは、
ゆーちゃんを拒むことができなかった。
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