短編 | ナノ
大人の◯◯卒業式
「や、やっぱり可愛い子の方がいいな…」
そうひとりごちて、パソコンの画面を眺めるおれは石崎陽太24歳童貞だ。
もう一度言おう、童貞だ。
中学校で一人だけ彼女ができたが、その時は触れるだけのキスしかしなかった。
高校の頃、次々と童貞を卒業していく友達に焦りつつも、「大学生になればおれも」となんとか自分を慰めて童貞の前に高校を卒業。
大学に入ってもモテなかったおれは「しゃ、社会人になれば」なんて高校の時同様に過ごしていたが彼女すら作れずに大学を卒業してしまった。
そして社会人二年目になっても変わらない現状に童貞を拗らせたおれはある手段で童貞を卒業することにしたのだ。
そう、出会い系サイトだ。
ただし普通の出会い系サイトではない。おれが選んだのは、綾鷹ではない。
ゲイ専用の出会い系サイトだ。
どうしてかなんて訊かないでくれ。アナルは女の子より気持ちいいって聞いたんだ。童貞を拗らせたんだ。童貞の好奇心を舐めてはいけない。
とにかく、アナルの誘惑に負けてしまったおれは今、ココアを片手にゲイ専用出会い系サイトで好みの子がいないかどうかを探していた。
さすがに自分のお尻にちんこを入れるのは怖くて無理なのでネコの人を探している。
これも調べたんだ。ちなみにちんこを突っ込む方をタチというらしい。おれはタチがいい。
そうしてサイトを眺めること数十分。
「え、き、綺麗…」
とあるプロフィールとともに貼り付けられている写真に釘付けになっていた。
中性的で女性だと言われれば頷いてしまうような顔。薄い唇の端にある黒子が彼の色気を助長している。
名前はユズというらしい。可愛らしい名前だ。歳はおれの3つ上の27歳。いい感じだ。それに彼はネコ。
彼がいい。
そう思ったおれは他を見ることなく、すぐさま彼と交渉して、来週会うことになった。
おれはその晩興奮してしまい、ユズさんの妄想だけで自慰をした。
***
「ラブホとか初めて来るなぁ」
待ちに待った週末。
会社帰りに、指定されたラブホの前でユズさんを待っていた。
まだかなぁ。待ちきれないからって、早く来すぎたかもしれない。一人でラブホの前に突っ立てるもんだから、さっき一組のカップルに変な目で見られちゃったよ。
「ヨウタくん?」
落ち着かなくてソワソワと指遊びを始めたところで、後ろから名前を呼ばれた。
「え、あ、そうです!」
慌てて振り返れば、そこにはとんでもないイケメンが、愛想の良い笑みを浮かべていた。
もしやこの人が
「あの、もしかして」
「うん、俺がユズだよ」
なんてこった。
目の前のユズさんは、身長は180センチくらいありそうだし、肩幅だって広いし、何より顔立ちに女性らしさがない。
パソコンで見たユズさんはなんていうか、フェミニンな感じだったのに。
別人なんじゃないかと疑ったが、特徴的な唇の端の黒子と、種類は違えども綺麗な顔が、パソコンで見たユズさんと重なる。
「えーと、ユズさんの、その」
「あ、見た目が違う?ごめんねー、あれ7年前の写真なんだよね」
なんだと。7年で超絶美人からスーパーイケメンに変わっただと。
人の成長とは恐ろしいな。
「やっぱりこんなデカイ男じゃキモいよね」
おれが混乱していることに気がついたのか、ユズさんは悲しそうな顔をして見下ろしてくる。
「そ、そんなことないです!!」
慌てて首を振った。そうだ、少し見た目が違うからって、ちょっと想像よりデカいからって、こんなの失礼じゃないか!
い、行きましょう、とラブホを指差せば、ユズさんは嬉しそうに笑った。あ、その笑顔は可愛い。
「ほんとに良いの?」
「は、はい」
「…まぁ、拒んでも意味ないけど」
「え?今なんて、」
「なんでもないよー、さ、行こうか」
ユズさんはそう言っておれの肩を抱いて歩き出した。
***
先にシャワーを浴びたおれは、1つしかない大きなベッドの上に正座をしていた。
浴室から水音が聞こえて心臓がばくばくする。
ユズさんがこれからえっちをするためにお尻を綺麗にしてるって考えただけでおれのちんこは元気になってしまった。
おれはこれから、童貞を卒業するんだ。
「おまたせー」
一人でハラハラしながら待っていると、バスローブに身を包んだユズさんが現れた。濡れた髪や首筋、少し火照った肌。色気が半端無い。
おれのちんこがさらに元気になってしまった。
「そんな緊張しなくていいよヨウタくん」
「え、ユズさん、わぁっ」
ユズさんはベッドに乗り上げてくると、正座してガチガチに固まっているおれを押して、覆いかぶさってきた。
せ、積極的だ。
「あの、ユズさん」
「まぁまぁ、俺に任せて」
「え、んぅ!」
綺麗な顔が近づいて来たと思ったら、キスをされた。
触れるだけのキスしか知らないおれに、最初から深いキスをかましてくる。
「んぁ…ふ、ぁ……ん、ぅ」
「ん…」
舌を入れてきて、絡めたり、歯の列をなぞったり、舌を甘噛みしてきたり、吸ったり。気持ちよくて頭がぽーっとなる。上顎を舌で擽られると体がぞわりと粟立つ。
ユズさん、キスうますぎ…
「クスッ…勃ってるね」
「え…んぁ!」
キスを中断したユズさんが、笑いながらバスローブの上からおれのちんこに触れてきた。そこはキスだけで完全に立ち上がっていた。
「あ、恥ずかし…」
「これからもっと恥ずかしいことすんのに?」
「あっ…」
おれは恥ずかしくて脚をもぞもぞと動かしたが、ユズさんはおれのバスローブの前を開くと、つーっと指で体を撫でてきた。
何度か体を撫でられるうちに、くすぐったいのが耐えられなくて体を捩ると、もう一度キスをしてユズさんが一度おれの上から退く。
どうしたのかとユズさんを見れば、おれの足を割って間に体を入れてくる。そして股に顔を埋め…
ま、まさか!
「ゆ、ユズさん!…んんっ!」
ゆ、夢にまでみたフェラ!!
熱くて柔らかい咥内にちんこが溶けそうだ。
舌で裏すじを舐められると腰が揺れる。
「ぁ、ああっ」
「ひもひぃ?」
「ひぁっ、ぁ、そこで喋、ううっ」
「ん、」
「ぁ、あああっ!」
限界がきてユズさんの髪の毛をぎゅっと掴めば、察したユズさんがさらに強く吸い付いてきて、おれはあっけなく射精した。ユズさんの口の中に。
「あ、ああ!ごめんなさい!」
「ん、大丈夫」
「え、のん、飲んだ!?」
「いっぱい出たね?」
「ううっ」
ペロリと口の端についた精液を舐めとるユズさんに顔がボッと熱くなる。それだけでまたちんこが元気になりそうだ。
「気持ちよかった?」
「は、はい、とても…」
「よかった。じゃあもっと気持ちよくなろっか」
そう言ってユズさんがローションのボトルを取り出した。
それってつまり、そういうことだよな!
「あ、あの、おれやります!」
「ん?いや、大丈夫だよ。俺に任せて」
じ、自分で解すの!?あ、やばい、想像しただけでまたちんこが…
「ひゃ!?」
つ、つめたい!お尻が!
「え?な、なんで」
なんでおれのお尻に、ローション垂らしてんの?
ぐにぐにとお尻の穴の縁を押されて目を見開く。
「や、ゆ、ユズさん?」
「んー?」
「ちが、これ、ひっ、おれっ」
「おれさ、ネコじゃないんだよね」
え、なんだって?
「だ、だって、サイトに」
「あれにはネコって書いたよ」
どういうことだ。ユズさんはネコじゃない?てか、ネコって?
「ヨウタくんさ、俺を抱く気で来たでしょ?」
その言葉に、何度も頷く。そうだ、おれはユズさんを抱くつもりできたんだ。それにサイトにだって…
「俺タチを掘るのが好きなんだよね」
ユズさんが綺麗な顔で笑いながらそう言った。
「どういう…」
「つまり、今抱かれるのは、ヨウタくんってこと」
「なっ…い"っ!」
穴の縁を撫でていた指が、ぐ、と中に入り込んで来た。
「や、やだっ」
中に入って来た指が狭い中を探るように動く。指一本なのに異物感がすごい。
体が強張るとぎゅっと指を締め付けてしまい、その存在をさらに感じてしまう。
なんでこんなことになったんだ。
「大丈夫、大丈夫」
いやいやと首を振れば、慰めるように額にキスをされる。
「ん、ぃっ!」
ふと力が抜けた隙にさらに指を奥に進められて声が漏れる。
「いっぱい可愛いがってあげるから」
じわりと涙の浮かんだ目の縁を舐めたユズさんが、薄い唇を歪めて笑った。
***
「ん、ひぃ、ああっ、も、やぁ!」
「あー、気持ちいいよ、ヨウタくん」
「あ、ん、んぁっ」
あれから散々お尻の穴を弄られてちんこを突っ込まれて喘がされた。
最初はショックでひんひん泣いていたけど前立腺をゴリゴリされたらもうダメだった。あんなに気持ちいいのは生まれて初めてだった。
でも、だからって10回以上イかされて、3回も中出しされてもなおガツガツ腰を振るなんて、いくらなんでもやりすぎだ。
気持ちよすぎて死んでしまう。
「はっ…ヨウタくん、気持ちいい?」
「やっ、あっ、も、ゆるしてっ、ひっ」
「ねぇヨウタくん、俺と、付き合ってよ…っ」
「んやぁっ、な、にっ、あっ」
「サイトの写真見たときから…はっ、可愛いなって思ってたんだよ、ね…はぁっ」
「んんっ」
「それに、こんなにえっちで、さらに好きになっちゃった」
訳の分からないことを言いながら中をちんこで抉ってくるユズさん。限界が近いのか律動が激しくなってきて頭がチカチカして、正直ユズさんの言ってることの半分も理解できない。
「はぁっ、もう、やら、やめてっ」
「ねぇっ、俺と付き合うよね?…付き合うなら、これで終わりにしてあげるよっ」
「んっ、あ、わかった、から、ああっひ、ぁ、つ、きあう、からぁっ」
おれの身体は既に限界で、気付けばなんども頷いていた。
ユズさんの綺麗な顔が嬉しそうに綻ぶ。
「ん、はぁ、ヨウタくん、好きっ、ねぇ、好きって言ってっ」
「ああっ、ひゅ、すきっ、んんっ」
「っヨウタくんっ!!」
ドクドク、と何度目かの熱が腹の中に注ぎ込まれたところで、おれは意識を手放した。
次に目が覚めたときに「幸せにする」とはにかみながら、身体中が怠くて動けなくなったおれを甲斐甲斐しく世話するユズさんの姿に「これはこれでいいのかも」と絆されたおれは改めて付き合うことを受け入れたのだった。
(とうとう大人の階段をのぼってしまった…)
(卒業したのは処女だけど)
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