短編 | ナノ
貴方のモノ


「あき、こっちにおいで」

高級過ぎるマンションの最上階。やけに低い位置にある夜景をぼんやりと見下ろしていたら、低く静かな声が俺を呼んだ。躊躇うこともなく彼が座るソファに近寄る。もう一度、おいで、と手招きされてソファにではなく彼の太股の上に座った。それでも少し上の位置にある顔を見れば、至極幸せそうに二重の幅の広い綺麗な目を細める。それはいつもの事だが、その薄茶色の瞳の中に静かな炎が垣間見えて、焦りから息を飲んだ。
今日俺は、何を失敗しただろうか。
謝らなくちゃ、と必死に自分の行動を思い出そうと記憶を遡る。

朝は陽人さんが起きる一時間前には起きて、朝ご飯の支度をした。寝坊はしなかったし、鮭の塩焼きもいい具合に焼けた。それから少しして陽人さんの機嫌を損ねないように、且つ寝過ごさないように起こした。特に機嫌が悪いようにも見えなかったし、行ってきますと囁いて落とされたキスも優しかった。

なら帰ってきてから?俺は陽人さんが帰ってくる前には夕飯を作り終えていたし、風呂だって沸かしておいた。どちらかが冷めていたか?いや、それはないな。陽人が帰ってくる時間を計算しながらやったんだから、その心配はないし、事前に湯加減も確認した。なにより俺は風呂はいつも陽人さん一緒に入っている。確か、良い湯加減だった。

となると、後は一つしかないな。
明らかに嫉妬に燃えた瞳は今にもその炎で俺を侵食してしまいそうだ。その癖、その甘く俺を呼ぶ声に脳味噌が溶けそうな錯覚に陥る。

「あき」
「陽人さん…」
「今日、配達に応答したね?」
「…はい」
「だめだよ、言ったじゃないか」

ごめんなさい、と謝ると大きな手が頬を包む。もうしない?尋ねられ、迷うこと無く頷いた。

俺は外に行くことは許されても、陽人さんのいない時分にチャイムに応答する事は許されていない。その基準が何なのか分からないし、俺が知る必要もないが、駄目なのだ。禁止されている。だけど俺は今日それを破った。別に、陽人さんに反骨精神を抱いた訳ではない。あり得ない。
だけど今日インターホンの画面に写るお兄さんが持つ荷物はかなり大きなものだった。流石に最上階まで持ってきたそれを持ち帰らせるのも気が引けて、つい応答してしまったのだ。これで陽人さんが機嫌を損ねるということは、少し考えれば分かる筈なのに。

迂闊だった、と頭を抱えたいが、今はそれどころじゃない。目の前の美しい人の機嫌を直さなければ。この人に嫌われてはいけない。

「はるとさん、もう、しないから」
「うん、絶対、だよ」
「うん、ぜったい」
「あきは、俺のだからね」
「…んぅ…はぁ…っ」

目の前の美しい顔に手を添えて誓えば、嬉しそうに俺の後頭部に大きな手を添えて固定し、深く口付けをしてきた。
それを合図に俺の身体はソファに深く縫い付けられる。

「はっ…ぁ…ん…」
「あき…」

吐息さえ飲み込まんばかりに唇を塞ぎ咥内を暴れまわる舌に必死で自分のそれを絡める。その行為に夢中になっていると、既に服を脱がされ露わになった身体に陽人さんの冷たい手と唇が這う。

「ぁッ…」

長い指が胸の突起を掠めると、いやに高い声が出て口を塞ごうとするも、手を優しく絡め取られてそれすらも許されない。

「舐めて」
「ん…」

差し出された白い指を、少し躊躇ってから口に含むと、舌を撫でられる。意図がわかって出来るだけ唾液を絡ませるように指を食むと、更に指の動きが早くなって苦しさに涙を浮かべた。

もういいよ、と頭を撫でられて口を開けると指が引き抜かれる。陽人さんの綺麗な指が俺の唾液でテカっているのをみて、嬉しいような、悪いことをしたような気持ちになって小さく息を吐く。そうしているうちに後孔に俺が舐めた指があてがわれて、小さく身体を震わせた。

「あ、ンッ…!」
「もう感じてるの?まだ、指一本だけど」
「ん…ぁ…は、るとさっ…」

更に一本、また一本と綺麗な指が埋まっていく。陽人さんと何度もそういう行為をしてきたから、指や陽人さんのモノを挿れられることに痛みを感じなくなった。それどころか、

「ゃ、そこ…ぁああっ!」

自分の感じるところを擦られれば、淫らな声を一層高くして身体を震わせる程だ。

「ふふ、あき、指だけでイったの?」

イヤラシイ、恍惚とした表情で美しい形の口がそう呟く。そうだ、本来こんな事をするものではないところで声を上げ善がる俺は、陽人さんの言うとおり、イヤラシイ。

「…はっ…あ、ンッ…!」

指が引き抜かれ、白く汚れた俺のモノをゆるく扱かれながら、疼く後孔に直ぐに陽人さんの熱が挿れられる。

「…はぁ…あきっ」
「ンッ…」

無意識のうちに下腹部に触れると、興奮した様子の陽人さんは俺に覆い被さるように抱きついてきた。さらに熱が奥まで届いて、少しでも動かれたらまた声を上げてしまいそうだ。

「あ…あ…は、るとさん…」
「あき、あき…」
「あぁ…んんっ…ゃ、あ、んっ」

貪るように腰を動かす陽人さんに、迫り来る快楽から逃げようと必死にしがみつくと、あき、と名前を呼ばれる。

「あき、きもちい?」
「あっ…ン…き、もちぃ…ひゃぁっ!」

「あき、あきは、俺のもの…俺のあき…」

「…ゃ、ぁああん」

あきは、俺の。そう繰り返し呟く陽人さん。

あきは、俺の。

確かにそうだ。俺は陽人さんに1億円で買われたのだから。


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