バカの悪あがき | ナノ
6
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「というわけだ」
「いやそれ明らかに冗談だよね!?」
「冗談…?」
「えぇっ!」
嘘だろ…と羽田は頭を抱えた。
「それ、精液じゃなくて、爪の垢でしょ…」
「爪の垢?」
きっと、精液をどうのこうのは雪村の友人のジョークだ。
それを、彼は真面目にとってしまったのだろう。
本来のことわざの意味を教えてあげると、分かっているのかいないのか、ふむふむと頷いている。
「分かった?」
「うん。じゃあ、羽田…」
「なに?」という前に、雪村が羽田の手を取った。
そしてそれを徐ろに咥えた。
「…は」
「ん、ぅ…」
乳児が母親の母乳を飲むみたいに、チュパチュパと羽田の指を吸う。
「なに!?」
遅れて反応した羽田が、慌てて雪村の口から指を引き抜いた。
そのときに卑猥な水音が鳴って居たたまれなくなる。
唾液で濡れた自分の指を見て複雑な気持ちになり、ティッシュで拭いていると、雪村が控えめに羽田の肩を叩いた。
「こ、今度はなに?」
「羽田の爪の垢をくれ」
「だからことわざなんだって!!」
やっぱりわかっていなかった!
「ていうか煎じるんだってば…」と衝撃のあまり場違いなことを口にして羽田が再び頭を抱えるのを見て、雪村はしょんぼりと俯いた。
「じゃあ、俺はどうすれば…」
「どうすればって…勉強なら、教えてあげるよ」
「本当か!?」
その姿があまりにも悲壮感漂っていて、思わずそういうと、雪村の顔がぱあっと明るくなる。
「う、うん」
「ありがとう!やった!」
「そ、そんなに嬉しいの…」
「もちろん。あ、そうだ」
「まだ何かあるの?」
今度はなんだ、と少し身構える羽田に構うことなく、雪村は続けた。
「羽田、俺と付き合ってくれ」
「…う、ん…?」
なんだって…?
「俺、羽田に話しかけるタイミング見つけるためにずっと羽田のことみてたんだけど」
「え、こわい」
「教室に入ってきた蜂を外に逃してあげてたのにキュンときた」
「えっ見てたの!?」
「で、今日一緒にいて確信した」
雪村が、羽田との距離を詰める。
「俺は、羽田が好きだ」
雪村の唇が、羽田のそれに近づいた。
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