出会ってから今までずっと自分の隣においてきて、時には縛るような真似さえして、常に自分の目に収まる範囲に留めてきた。今思えばそれは相当な苦痛を伴っていただろうし、自分のしたことだと言うのに気味の悪い恐ろしささえ感じさせる。そんな身勝手で不条理な要望にも、彼女は拒むことなく受け入れてくれた。そうして自分の欲望を満たすと言うのに貪欲な僕の欲望は底を知らず、ひとつ満たせばまたひとつ湧き上がる欲望に囚われ、それを繰り返し貪欲に彼女を求め縛り付けてきた。そして今、彼女の名字を奪うことで自分の元に手懐け繋ぎとめようとしている。

彼女と出会うまで、自分がこんなにも醜く貪欲な人間だなんて知る由もなかった。むしろ欲とは割とかけ離れたところに存在していると思っていた。大して欲しいものなどなかったし、あったとしても手に入れるのに時間がかかるのならば未練もなく捨てることができた。唯一固執していたものが勝利という名の名誉だが、それも今となっては若さゆえの熱を帯びた欲望だったと思う。けれど彼女に対する欲というのはどこまでも底なしに溢れ出てきて、熱を帯びると言うよりも本能的に求め満たそうとする。それは性欲に似ているかもしれない。無意識のもっと奥の方で燻ぶるのだ。いつだって自分の見える範囲で、小さな籠に閉じ込めて、瞳には自分の姿だけを写すように外界をシャットダウンしてしまいたい。僕の姿だけをその目に収めさせたい。他の男なんて、見て欲しくない。人はそれを独占欲というのだと言った。


「…これで、あなたは一生、僕のものです」


こんな書類一枚で彼女の一生が手に入るなんて安いもんだ。彼女という存在を手に入れるにはあまりに安すぎて心配になるくらいに。それでも彼女が微笑むのだから、それは真実なのだろう。世の中の愛というのはとても薄っぺらだ。僕らにとってこれは単なる書類上の、事務的な手続きにすぎない。こんなものがなくたって、きっと離れることは一生ない。それはどちらかがその命を終える瞬間だ。それでもこうして世間的にも逃げられないように繋ぎとめたいだなんて、僕はどうかしているのかもしれない。その上さらに、彼女をこの腕の中から逃したくないだなんて。

腕から伝わるその体温に、抱きしめた腕をさらにきつくした。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -