熱の上がる身体は彼の指先が触れるたびに苦しさを増した。そっと、するりと触れる彼の指先はわたしが思っていた以上にごつごつとしていて、見た目に反して男の人の手をしているのだと改めて実感したのはいつのことだったか。もう何年も前のことで、鮮明に覚えていた感覚も少しずつ薄れて、今ではそう思った記憶だけが脳に刻まれている。


「…何考えてるんですか」
「な、にも」
「嘘は良くありませんよ」


ねっとりと首筋に唇を押しあてられれば思考能力なんて皆無に等しくなって、ただただその感触に震える身体を押し込めることしかできない。そんなことをされてしまったら、好きの気持ちが溢れて心臓が壊れてしまいそう。指先一つに触れられるだけで心が震えるのに、優しく撫でられ味わわれ求められてしまえば、もうその手中に落ちる以外の道は残っていない。


「さっき、何考えてたんですか」


思考もぐだぐだに蕩けきった脳みそにそれを訊ねるなんて卑怯だ。緩んだ口元が勝手に滑ってしまうではないか。それを狙って、彼がこのタイミングで訊いていることなんてわかっているのに、今のわたしには自制するだけの理性は残っていない。


「は、じめ、の、ことだよ…」
「僕のこと?」
「昔のこと、思い出してた…」
「…それなら、思い出す暇もないくらい、集中させてあげます」


そう吐き捨てて触れる唇は先程の優しいものとは比べものにならない、まるで獣のように激しいものだった。噛みつくように触れ、舐め、少しだけ加減をした甘噛みのぴりぴりと痺れる刺激だけを残して離れてゆく。決定的な刺激は与えない。本当に卑怯だ。


「**…」


そんなお預けの状態で、耳元で吐息混じりに名前を呼ぶなんて、本当に彼という人は、どこまでも卑怯だ。そんな風に呼ばれたら、わたしは、どうにもできない。

わたしはとっくに、彼の掌に落ちていた。
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